新型肺炎への懸念台頭から株式市場は大幅な調整を余儀なくされています。筆者は前回のコラム「トヨタ自動車とホンダ、今、どちらを投資対象にすべき?」で既にかなり慎重な見方を提示していましたが、現実には筆者の予想以上に荒い展開となってしまいました。

直近は様々な局面で人・モノ・カネの滞留が散見され始めており、1~3月期のGDPは大幅な悪化となった10~12月期よりもさらに悪化する可能性が否めなくなってきています。消費税増税にも、これまた筆者はかなり批判的ではあったのですが、そのインパクトも実体経済には相当な足かせとなっています。

引続き、筆者はまだ底打ちが確認できる状況には至っていないとの見方にあります。

配当利回りが高いのはホンダ

さて、今回も引き続き具体的な企業を例に同業他社比較を試みましょう。

なお、このコラムでは何度となく繰り返していますが、株価の決定要因をピンポイントで特定するのは(この世界で生計を立てている職業人である筆者でさえも)至難の業であり、その分析が正しいのかどうかも後から検証してみて初めて確認できるものです。

投資は正解の見えない中での決断の世界であり、であるからこそ、リスクの最小化に向けて手持ちの情報を如何に活用できるか、が重要になります。会社四季報のデータをどう活用するかは個々人によって違ってきますが、本コラムがその一助となれば幸いです。

前回のコラムでは、トヨタ自動車とホンダを例に、それぞれ株価の動きを会社四季報のデータからどう分析・解釈できるのかを解説しました。今回はさらに分析を進め、実際の投資対象にどちらを選ぶべきかといった視点でまとめてみたいと思います。

この視点において筆者がまずチェックするのは配当利回りです。これはどのくらい株価が底堅いか、またどのくらい「塩漬けに耐えうるか」を確認しておくためです。

最新の四季報(2020年新春号)によると、トヨタ自動車の予想配当利回りは2.85%、ホンダは3.56%とあります。現在、ほぼ金利ゼロに近い普通預金と比較すると、仮に今後株価の上昇が限定的であったとしても、両社の株式ははるかに高い利回りにあることがわかります。

不幸にして株価の下落があれば、この利回りはさらに上昇するため、配当だけでも十分魅力的な運用先として「買い」が入りやすくなるはずです。結果として、株価のダウンサイドリスクはあまり大きくないのではと考えることができるでしょう。

配当利回りは重要な株価の下支え要因なのです。もちろん、企業が減配に踏み切ればこの利回りは低下してしまいますので注意が必要です。

現在のところ、両社とも純利益から配当金をどのくらい支払っているかを示す配当性向は30%台にとどまっており、減配の可能性はかなり低いと想像できるでしょう(ただし、直近は新型肺炎の影響を勘案する必要があります)。この観点からすれば、ホンダの方がより下値は堅そうだと言えるかもしれません。

業績拡大局面でトヨタ自動車の投資魅力度が増す

次に筆者がチェックするのは、今度は株価のアップサイドを占う指標です。とはいえ、両社は同業なので事業環境面で大きな差異はないはずです。

差異があるとすれば、海外依存度の差でしょうが、会社四季報によると両社とも海外売上比率は85%前後とこれもあまり変わりがありません。つまり、両社を取り巻くファンダメンタルズに大きな差はないと判断できるのです。

しかし、どれだけの付加価値を捻出できているかを示す営業利益率を見てみると、トヨタ自動車は8%程度が見込まれているのに対し、ホンダのそれは5%程度に留まります。売上動向では両社とも大差がないとしても、計上される利益額は利益率の違いによってかなり違ってくる可能性があるのです。

このことは、業績面ではトヨタ自動車の方に底堅さ(あるいはアップサイドの大きさ)があることを示唆しています。特に業績拡大局面においては、トヨタ自動車の投資魅力度が増すこととなるでしょう。

なお、アナリストとしてはこの利益率の差が何に起因しているのかまで分析を試みたいところですが、ここでは四季報に計上されているデータのみを使っての実践分析にとどめておきたいと思います。

下値の堅さではホンダ、アップサイドポテンシャルではトヨタ自動車

そうすると、面白いことに下値の堅さではホンダに、アップサイドポテンシャルではトヨタ自動車に、それぞれ分があるように見えます。ここまで株価の特性を把握できれば、後は投資家個々人の投資哲学やリスク許容度によってどちらを選好するかが決まってくることでしょう。

実際、ホンダの株価はかなりの悪材料を織り込んだ上で反転してきた一方、トヨタ自動車の株価は業績好調を素直に好感して上昇してきたことは前回のコラムで指摘したとおりです。ここで前回と今回の見方は見事に一致してくるのです。

繰り返しますが、これらの見立てが正しいのかどうかはさらに分析を継続的に行ってみる必要があるうえ、他業種ではまた別のアプローチが必要になってくることは論を待ちません。

ぜひ、同様の分析とそれに沿った読者の皆さん独自のシナリオの想定をこの他のケースでも試みてください。会社四季報の見方が変わってくること請け合いです。