株式市場はかなり荒っぽい展開となってきました。主因はご承知の通り、ブラックスワンとも言える新型肺炎の発生です。

現時点ではその感染懸念の台頭が株価の波乱要因となっていますが、さらにこの状況が長期化することとなれば、物流や生産といった実体経済にも世界規模で影響が発生しかねません。早期鎮静化を期待したいところですが、状況はまだ流動的と言わざるを得ないでしょう。

さらに、来週にも発表される10~12月期のGDPも、消費税増税の影響が露わになってくるという観点で非常に重要な指標となります。引続き、筆者は慎重なスタンスが現在のところは必要なのではないかとの見方にあります。

トヨタ自動車とホンダの株価チャートを比較すると…

さて、今回は、前回に解説した同業他社比較を基に、具体的な企業を例にとってより実践的に考えてみましょう。ここでは日本を代表する産業である自動車業界への投資という設定で、その中でトヨタ自動車(7203)とホンダ(7267)を比較してみることにします。

まずチェックするのは株価チャートです。最新の四季報(2020年新春号)によると、過去3年半、トヨタ自動車の株価は緩やかな上昇基調を辿り、2019年後半からは急速に上昇して過去3年半における最高値水準に達していることが確認できます。

対照的に、ホンダの株価は過去2年ほど大幅に調整しており、直近半年はトヨタ自動車と同様に急上昇を始めていますが、それでも過去3年半の最高値からは70%程度の水準にとどまっています。

同じ自動車業界となりますが、銘柄によって実は株価の動きはかなり異なっていることがわかっていただけることでしょう。この差を見るだけで、「ホンダ株はトヨタ自動車株に比べて出遅れているのではないか」、あるいは「トヨタ自動車株はホンダ株にはない独自の要因を織り込んできているのではないか」といった仮説を考えることができます。

株価の差の一因は業績動向なのではないか

では、なぜそんなに両社の株価に違いが出ているのでしょうか。そこで業績欄を確認するというステップに移ります。

すると、トヨタ自動車の業績は、2019/3期には減益に転じましたが、2020/3期は急速に改善する見込みとなっていることが確認できます。欄外にある会社予想との比較においても、会社四季報はより強気の見通しを独自に出しており、概して業績は好調なのだという印象を筆者は受けました。

対してホンダも2019/3期には減益に転じており、この点ではトヨタ自動車と同様の業績推移となっています。しかし、2020/3期も会社四季報では減益傾向が継続するとの見通しにあり、欄外にも「前号比減額」との記述もあって、どうやら業績はやや苦戦中という状況にあるようです。

すると、両社の株価の差の一因は業績動向なのではないか、と予想がつくわけです。再び株価欄に目を移すと、両社とも予想PERは9倍程度となっており、両社で期待値に大きな差があるわけでもありません。ここでも業績の差が大きく影響していることが確認できます。

つまり、どうやら「どちらかの株価が出遅れている、あるいは過剰な期待値にあるという状況ではなさそうだ」と判断できるのです。この判断を基準とすれば、当然業績が良い方の企業を投資対象として選択すべき、という結論となるはずです。

業績が厳しそうなホンダの株価が上昇した理由

しかし、するとこんな疑問も出てきます。「業績が厳しいように見える中にも関わらず、ホンダ株は2019年後半から上昇しているのはなぜか」というものです。株価は複雑な要因が絡み合って形成されるので単純に論じることはできませんが、これは大変重要な視点です。

会社四季報の情報のみで筆者がまず見立てるとすれば、「株価は業績面での悪材料を既に織り込んでしまっており、むしろ今後の展開への期待が織り込まれ始めたのではないか」という可能性です。

実際、ホンダの2020/3期の税前利益は2018/3期よりおよそ20%減少する見通しになっていますが、直近最安値となる株価は高値から40%低い水準にありました。

単純に考えると、株価はもっと業績が厳しくなるシナリオを想定して下落していた可能性があります。現実にはどうやらそこまでの厳しさにないのではないかとの観測から、株価は(下げ過ぎた分を修正し)上昇してきたように思えるのです。

現実にはもっと別の要因があるのかもしれませんが、会社四季報だけを見る限りにおいては、そういった見立てができるはずなのです。これはまさに前回のコラムで触れた「ファンダメンタルズと大まかに把握した株式市場の評価との乖離を見極める」作業の典型的な一例と言えるでしょう。

もちろん、これらの見立てが正しいのかどうかはもっと積極的に分析を行ってみる必要があります。しかし、闇雲に分析をするよりも、このようにいくつかのシナリオを予め想定してから分析をする方が、答えを得るためには近道であろうことは想像に難くありません。会社四季報をじっくり見るだけでも、少なくともこの程度のシナリオは想定が可能なのですから。

さて、次回はさらに(会社四季報を基に)分析を進め、銘柄選択への実践的なアプローチをご紹介してみたいと思います。