パニック的な売りは、わからないことへの恐れの表れ


S&P 500指数は先週2月21日(金)に1%、週明け2月24日(月)には3.35%下げ、2日間で4.35%下落しました。

新型肺炎について、私たち日本人は、自分の国は中国についで2番目に感染者が多い被害国に住んでおり、既に十分国内では大問題になっています。私たちにとっては韓国、イタリア、中東で感染者が増えたというようなニュースが出たとしても、それほど驚くに値しないのだと思います。

ですが、遠く離れた米国に住むアメリカ人の投資家の視点でみると、自国では相対的に被害が少ないため、新たな国々で新型肺炎に関する悪材料が出続けたニュースは、株式市場においてわからないことへの恐れとなり、月曜日のパニック的な売りをよんだのだと思います。

大切なのは冷静かつ大局的な視点を失わないこと

このような局面で1番大切なのはまずパニックにならず、冷静になることです。今目の前で起きていることだけに注目するのではなく、大局的な視点を失わないことです。ひとつずつファクトチェックを行ってみましょう。

株価の下落について

昨日までの下げを持ってS&P 500指数は、史上最高値の3,393.5(2月19日)から3,225.9(2月24日)までで5.2%調整しました。

同指数は、昨年も5月(-8.3%)、7月(-7.3%)、9月(-5.8%)と3回に渡って5%以上の調整を経験しています。このような世界的に不安な状況下今回の株価調整は理解できる調整ではないでしょうか。

米国企業の決算発表について

私は、1月の半ばからの米国株市場の様子を、米企業決算と新型肺炎に絡むニュースとの綱引きだと例えてきました。

>>(参照)「新型肺炎の感染拡大も米国株続落は考えにくい理由

つい最近までは企業決算がその綱引きに勝っていたのですが、既に約9割の企業が決算発表を終えたこともあり、新型肺炎のネガティブなニュースに打ち勝つ企業からのニュースフローが不在となっていました。

2020年第1四半期の収益予想は2月8日時点の+0.74%から、-0.13%へと既に下方修正されています。今回の市場の下げはこのような下方修正も織り込んでの下げではないかと思います。

株価のバリュエーションは

S&P 500が今回高値から5.2%下げたことを受け、米国株のバリュエーションの割高感が少し解消されています。

1999年末からのS&P 500指数の平均予想PERは約18倍です。史上最高値の3,393.5だと2020年の予想PERで見ると18.5倍のバリュエーションだったのですが、それが昨日の引け値である3,225.9のレベルを使って算出すると今の予想PERは17.7倍と歴史的な平均を若干下回っています。

また、2021年の予想EPSを使うと、今のバリュエーションは、16.4倍まで下がります。

基本的な考えは、新型肺炎によって収益がなくなったのではなく、あくまでも先送りになったということです。

私の2020年末のS&P 500のターゲットの3,500には変更ありません。

今後想定できるポジティブな材料とは

基本的な米国のファンダメンタルズの強さは何も変わっていません。今年は全米21の州で、最低賃金が引き上げられています。金利低下により住宅ローン金利が下がり、月間総額26億ドル相当のセービングが起きると見られています。個人消費に支えられた米国経済は強靭です。

最大の投資家である企業による自社株買い

今までの米国株の調整局面で株を最も買ってきたのは企業そのものです。今回も例外ではないと考えます。1月より多くの企業の株価は安いので、企業にとっても自社の株式は買いやすくなっています。

早速ですが、パソコンメーカーのHP社は、昨日引け後の決算発表で150億ドルの自社株買いを発表しており、引けた後同社の株価は3.3%上昇しています。

ファンダメンタルズを見ている企業アナリストたちの援護射撃

私が今まで長い間米国株市場を見てきて感心させられるのが、ウォールストリートのアナリストたちによるマーケットへの援護射撃です。

外部要因でアナリストが見ている株価が下がった場合、株価が割安になったことを受け、「今の株価は割安だ!」とコメントをするのです。そのようなコールを受け、共感する投資家はその銘柄を買いますし、その事実は株式情報サイトやテレビ番組で紹介され、個人投資家も参加するという流れとなります。

現在、市場は最高値から5.2%下落していますが、個別銘柄を見ると数多くの銘柄が2桁以上の株価調整を経験しています。

減税2.0の発表

トランプ大統領は、追加減税策を計画していると報道されています。その中には、個人が株式投資を行い税金の恩恵を受けというスキームも入れる意向があると見られています。

米国株の上昇を自分の手柄の証と自慢しているトランプ大統領にとっては、米国株の下げは自身の大統領選挙再選の可能性が遠のくことを、今までのどの大統領より良くわかっているようです。そのためにも株を下げるわけにはいきません。

トランプ大統領は、今日も外遊先のインドから「Stock Market starting to look very good」とツィートしています。このvery good とは抽象的ですが、私は「買いやすくなった、魅力的なレベルへ下がった」ということが言いたいのではないかと考えます。まるで、証券会社のストラテジストのような発言をしています。

FRB(米連邦準備制度理事会)も必要があれば金利を下げるなど迅速な対応を取ってくると思いますし、米国のブルマーケットの味方は多いのではないかと思います。

リスク

週末中国では、同国において輸出額最大を誇る広東省と、最大の石炭の産地である山西省が新型肺炎の警戒レベルを2へと下げ、加えて4つの省が3へ下げたとの報道がされています。

米国大統領選については、最後の蓋を開けてみるまでは結果はわかりません。3年前トランプ氏が大統領になるなど誰も想像していなかったわけですから。

引き続き地政学的なリスクは存在します。もうすでに歴史の果てに行ってしまった感はありますが、今年の年明けにはイランがイラクにある米軍施設をミサイルで攻撃し、一時は米国とイランの間で戦争が始まるのではないかという緊張感が走った時がありましたね。

結論は

残念ながら、月曜日の大きな下げを持って調整が終わったと言い切る事はできません。新型肺炎の展開にかかっているからです。ただ、S&P 500がここから下がったとしても、200日移動平均線の3,043のレベル、うまくいけば100日移動平均線の3,162あたりではないかと思います。

今回の下げは、今まで米国株の投資をしたことがない人にとっては、最高の買い場を与えてくれていると思います。 

「オマハの賢人」と呼ばれているウォーレン・バフェットは、この下げの局面で昨日の米経済テレビ番組で、こう語っています。 

「この24~48時間の間で、10年または20年先の米国企業の見通しの一体何か変わったというのか?」

米国株はこのような局面を何度も何度も経験し、史上最高値を更新してきました。調整局面で投資を継続することが正しいことは、米国株市場の長い歴史が証明しており、今回も例外ではないのではないかと思います。

この下げの局面で、S&P 500の値動きにリンクするETFに加え、以下の個別銘柄を時間の分散を持って投資されることをお勧めしたいと思います。

・アップル(NASDAQ:AAPL)
・アマゾン・ドットコム(NASDAQ:AMZN)
・アルファベット(NASDAQ:GOOGL)
・ウォルト・ディズニー(NYSE:DIS)
・ナイキ(NYSE:NKE)
・ロウズ・カンパニーズ(NYSE:LOW)
・テスラ(NASDAQ:TSLA)