蔡氏は過去最高の817万票を獲得、韓氏の敗因は?
台湾総統選の投票が1月11日に実施され、与党・民進党の蔡英文(さい・えいぶん)総統が再選された。台湾中央選挙委員会の発表によると、蔡氏は過去最高の得票数817万票を獲得して、552万票を得た国民党の韓氏に圧勝した。投票率は66.27%だった前回から74.90%と大きく伸び、台湾の有権者の関心の高さが数字に現れた形となった。
選挙戦は、実質的には蔡、韓両氏の一騎打ちだったが、序盤戦では国民党・韓氏が有利に足場を固めていた。
「民進党を政権から引きずり下ろす」と主張が明確な韓氏は、2018年の地方選での国民党の躍進を支えた堅い地方組織の地力の差もあり、昨年前半の世論調査では支持率で蔡氏を大きく上回っていた。
しかし、訪問先の香港で中国政府の出先機関トップと会談して「親中派」のレッテルを貼られた上に、6月以降は香港で反政府運動が発生、長期化する中で、国民党の地盤である保守層からの支持が伸び悩んだ。
中国と距離を置きたいと考える台湾の世論が強まったことも勢いを失う大きな要因となった。「庶民派」イメージで浮動票を獲得する選挙戦略も、家族が高級マンションを売買していたことが明るみに出て空振りした。
「一国二制度」に台湾世論が拒否反応
一方の蔡氏は選挙戦で再選に向けて、2016年の政権発足から進めてきた公務員の年金制度改革や脱原発の推進、同性婚の実現といった1期4年間での成果と実績を訴える戦略を展開してきたが、序盤戦は世論の反応は薄かった。
蔡氏が信念や人柄に優れていることは認知され、同性婚の結婚を認める法案を成立させるなどリベラルな政策では評価が高かったが、産業振興や外交では目立った成果を上げられていないとの評価も定着していた。なにより中国の脅威からどう台湾を守るのかについては、答えを示せないままであるという国民の不満も大きかった。
ターニングポイントは、やはり香港情勢である。終盤には、腹を据えて「今回の総統選は対岸(中国)との戦い」であると強調して、中国が台湾に呼びかける「一国二制度」への台湾世論の拒否反応をうまく追い風に変えたと言えるだろう。
選挙終盤の12月31日には、立法院で中国から政治的影響が及ぶことを阻止するための「反浸透法案」を可決させることにも成功して、台湾の民主主義を守るという姿勢を鮮明にしてダメ押しし、選挙の勝利を決定づけた。
中国共産党にとっては、台湾を統一することは「長年の悲願」である。中国共産党は、ことあるごとに台湾に対して、香港同様に「一国二制度」を土台に統一を実現しようと呼びかけてきた。
台湾世論は、これを快く思っていない。かつて国民党・馬政権が進めた中国との経済的な結びつきを深める政策を続けていれば、台湾はいつの間にか、中国に取り込まれてしまう結果となることを恐れているのである。香港情勢を中国がうまく収めることもできず長期化してきたことも加わり、一国二制度の受け入れを拒絶する意見は多数を占めている。
中国はまた、台湾の外交関係を奪う戦略を推し進めてきた。台湾との外交関係を結んでいた国に接近して働きかけを強め、台湾との国交を断絶させ、中国との国交を締結させ、台湾を国際社会から孤立させて締め出すようにしてきた。
中国は、台湾はあくまでも中国の一部であり、そもそも国としても認めていない。これは、台湾にとっては屈辱的な行為である。これには、民進党のみならず、台湾世論にも強い反発がある。
米国が中国への対抗措置に台湾を利用
対中国という図式で、台湾カードを使ってきた米国は、このところ台湾に一段と接近している。トランプ米大統領が就任して以来、F19戦闘機の台湾への売却を認めるなど武器売却を積極化して軍事的な支援を手厚くする政策を取ってきた。経済的にも覇権を争う中国への対抗措置の一環として、台湾を利用するケースが増えていくだろう。
例えば、台湾は、半導体産業では非常に力を持っているが、その技術が中国に移転することを強く阻んでいるのは米国である。実際、中国は半導体の国産化を推進してきているが、最新の半導体製造能力は未だに獲得できていないと言われている。
台湾は、5Gでもハードウェアでの中核技術を持つ企業は多い。製造業のサプライチェーンでも、中国からの移転が検討される中、日本企業と並んで台湾企業は重要な役割を果たすだろう。米国は、今後より目に見える形で台湾を対中カードとして使ってくると考えられる。
1990年代以降、民進党と国民党は激しい選挙を繰り返し、僅差で勝敗を決してきた。今回は、立法委員選挙(国会議員の選挙にあたる)でも、民進党は多数を維持し主導権を確保した。両岸(台湾と中国)関係が微妙で神経質になる中、2期目の蔡政権は、台湾世論の大きな期待を背負って難しい局面に臨むことになる。