2020年もトランプ大統領で決まり!? 

米国大統領選の予測モデルを提供する調査会社ムーディーズ・アナリティクスは、2020年の大統領選挙において、現職で共和党のトランプ氏が大差で勝つという予測をはじき出した。

このモデルは1980年の大統領選以降の10回の選挙のうち一度しか予測を外したことがないという。唯一外れた一度は、トランプとヒラリー・クリントンが対決した2016年の大統領選挙だった。

ムーディーズは、経済面で3つのモデルを使って予測を立てているが、いずれのケースでも、2020年の大統領選でトランプは少なくとも全部で538人の選挙人中289人を獲得する見通しだという。
(中略)
3つのモデルのうち1つ目の「財布」モデルでは、経済についての3つの変数を重視している。ガソリン価格、住宅価格、個人所得の3つだ。いずれも、価格の変動が財布の中味に直結する。好調な米経済を背景に、トランプがいちばん大差で勝つのはこのモデルで、351人という圧倒的な選挙人を獲得する。「有権者が主として自分の懐具合に基づいて投票した場合、トランプが圧勝するだろう」とムーディーズ・アナリティクスのリポートは分析している。

2つめは「株式市場」モデルで、これがトランプにとっては最も厳しい。ここで重視するのは、スタンダード&プアーズ(S&P)500社株価指数とそこに組み込まれている優良企業500社の収益動向だ。米企業と株式市場は今、主にトランプの貿易政策をめぐる不透明感から悪影響を受けている。だからトランプに厳しくなるが、それでも、現時点ではまだトランプが勝つという予測になっている。

最後の「失業率」モデルでは、現在の低失業率が来年半ばごろまで続くという見通しを背景に、トランプの楽勝を予測する。
(中略)
もっとも、2020年の大統領選についてもまた外れる可能性はあると、ムーディーズ・アナリティカは警告する。トランプの経済政策には「詳細が欠けているため、定量化には複雑さが伴う」という。「トランプという候補が過去の例からあまりにも逸脱しているために、モデルがうまく機能しない可能性もある」とザンディは述べる。「結局、モデル化できない原動力に結果を左右されていた、ということになるかもしれない」

(出所:ニューズウィーク日本版2019年10月16日「トランプは大差で再選される──最も当たる調査会社が予測」)

まさに、こうした予測モデルを超えた奇想天外さがトランプ氏の強みなのかもしれない。現在、大統領をめぐっては弾劾訴追される可能性が伝えられているが、さらにやっかいなのは、トランプ氏のビジネス、選挙キャンペーン、そして大統領職に関連して、実に30件にも及ぶ調査が進行中であるということ。

個人的捜査のリスクを抱えるトランプ大統領

ニューヨークタイムズの記事(※1)によると、12件のCONGRESSIONAL INVESTIGATIONS(議会による調査)、10件のFEDERAL CRIMINAL INVESTIGATIONS(連邦犯罪捜査)、8件のSTATE AND LOCAL INVESTIGATIONS(州および地方の捜査)を受けている(2019年9月25日現在)。

現職の大統領が通常の法的手続きを通じて起訴されるかどうかに関して、法的な問題が根本的にあると言う。

なぜなら、米国の合衆国憲法では「重大な犯罪および非行」を犯した大統領は、議会による弾劾で罷免できると定められている一方、裁判で大統領の刑事責任を問えるかどうかについては記述がない。専門家によると、米司法省は現職の大統領は刑事訴追できないとの立場をとっているからである。

つまり、トランプ氏が大統領でいる限りは問題がないが、もし選挙に敗れた場合、個人的リスクがあることを意味している。2020年の再選に向けて必死になっているのはこれだけの調査や捜査を受けているからなのかもしれない。

トランプ氏は今後も予測不能な大統領への道を邁進することになりそうだ。2020年の大統領選挙で、ムーディーズ・アナリティクスの予測モデルが再び外れることになるのかどうか、その場合は、トランプ氏ではない誰かが大統領になることを意味している。

ウォール街とハイテク企業が恐れるウォーレン氏の経歴と政策

では、トランプ氏以外の誰になるのか。対する民主党では、これまで優位が伝えられていたバイデン氏がウクライナ問題で失速している一方、マサチューセッツ州選出の上院議員エリザベス・ウォーレン氏が民主党の指名候補者として勢いを増している。バイデンやサンダースではなく、なぜ、ここにきてウォーレン氏が支持を集めているのか。

前回の予備選ではサンダース支持、本選ではヒラリー・クリントンに票を投じたという女子大生は、今回はウォーレンを支持している。今回サンダースを支持しない理由を尋ねたところ、「サンダースは前回とまだ同じことを語っている。また、彼と彼のキャンペーンは怒りが強い。ウォーレンは政策的には似ているが、前向きであり、候補にも温かみがある」というものだった。彼女たちが強く語ったのは、「40%がトランプを支持していても、それ以上が支持していても関係ない。すべては、人々が投票所に行くかどうかにかかっている。有権者が『投票するのが待ちきれない』と感じる候補であれば勝てる。安全重視で選んだら失敗することを前回の選挙が教えてくれたのではないか?」ということだ。

(出所:ニューズウィーク日本版2019年9月11日「民主党予備選で着実に支持を上げるエリザベス・ウォーレン」)

ウォーレン氏の台頭に戦々恐々としているのが、ウォール街とテック企業をはじめとする大手企業のいくつかである。ウォーレン氏が大統領に選出された場合の「ウォーレンリスク」が市場で頻繁に取りざたされるようになってきた。

フェイスブック(ティッカー:FB)のザッカーバーグCEOが、非公開の社内会議でウォーレン大統領への警戒を「もしウォーレンが大統領に選ばれたら、我々は法的な挑戦を受けるだろう。しかし、私はその法的な挑戦に間違いなく勝つ。それでも我々にとって(もし彼女が大統領となったならば)ひどい状況なのか?その答えはその通りだ」と発言したことが漏洩した。

また、RBCキャピタル・マーケッツが3月に実施した投資家調査では「株式市場にもっとも優しくない候補者」としてウォーレン氏が選ばれていた。

ウォーレン氏の強みは公表した政策の多さにあり、民主党内の議論をリードしている。株価にマイナスになりそうなものでは富裕層への増税や、アップルなどIT大手4社「GAFA」の分割案などがある。7月にはブラックストーンなど未公開株(PE)ファンドの規制案も発表した。トランプ氏支持で知られる著名起業家ピーター・ティール氏はウォーレン氏を「最も危険な人物」と表現した。その理由は他の民主党候補と異なり、経済政策について具体的に語っているからだという。
「ウォーレン氏が当選見込みのある候補と見なされるようになれば、株式市場はいくつかの問題にぶちあたる」。著名投資家レオン・クーパーマン氏も先週、数百人の聴衆を前に警戒感をあらわにした。具体的な株価水準には言及しなかったが、ダウ平均が最高値圏でとどまるのは難しいとみているのは明らかだ。20年11月の大統領選まで残り約1年。市場ではすでに頭の体操が始まっている。

(出所:日本経済新聞2019年9月26日「市場の警戒、弾劾より「ウォーレン大統領」」)

大学で法学者として教鞭をとっていたウォーレン氏が上院議員となったのは2012年。政治の道に入るきっかけとなったのは前回の金融危機であった。

不良債権救済プログラム(TARP)の監督を目的とする委員会の議長を務めた他、オバマ政権において、自身が創設に関わった消費者金融保護局の財務長官顧問や大統領補佐官を務めた。その経歴も踏まえ、反ビジネス、反ウォール街という懸念が高まっているのであろう。

ウォーレン氏は格差是正として「富裕層への課税」「社会保障の充実」「最低賃金の引き上げ」等を提唱、またトランプ減税への反対も表明しており、一部企業の税率を引き上げることを掲げている。

さらに、大手ハイテク企業が市場を独占し競争を無力化しているとして、その解体を主張。こうした政策観点からハイテク、金融、エネルギー、ヘルスケアセクター等では高いリスクが想定される。

ルーズベルトの政策を彷彿とさせるウォーレンの消費者保護の視点

一方、ウォーレン氏をサンダース氏と同様、左派の社会主義者とひとくくりにしているが、彼女は決してそうではないと言う指摘もある。

彼女は「説明責任ある資本主義」と言う概念を提唱し、行き過ぎを正す「修正資本主義」の立場をとっているのである。その時に行き過ぎた市場は逆戻りを強いられることになるが、市場はウォーレンタントラムとならないのであろうか。

ウォールストリートは彼女を社会主義者であるとタグ付けしているようだが、彼女は自由市場を支持し、ビジネスと経済にとってトランプ大統領よりも優れているだろう。

ウォール街はしばしばバーレン・サンダース上院議員とウォーレン氏を「社会主義者」としてひとまとめにしているが、彼女はそうではない。彼女は一貫して「私は市場を信じている」と言っている。ウォール街に対する彼女のスタンスは、1933年に就任したフランクリンルーズベルトを思い起こさせる。その時代、金融機関が破たんし、国は不況にあえいでいた。ルーズベルト大統領は、1945年に亡くなるまでに、銀行預金者の預金保険への加入、商業銀行と投資銀行の分離、市場を規制するために証券取引委員会を設立した。これらの3つの措置は、米国の金融システムに対する信頼を取り戻すのに大いに役立った。しかし、もちろん、ウォール街もルーズベルトを嫌っていた。

彼女を非難するウォール街に対するウォーレンの反応もルーズベルトの対応に似ている。ルーズベルトは1936年に行ったスピーチで、金融業界における批判に言及しつつ、「彼らは私に対する憎しみで一致している。そして、私は彼らの憎しみを歓迎する。」と。「彼女はやめるべきだ」のコメントに対し、ウォーレンはそれをキャンペーン広告のように扱い、ビデオをTwitterに投稿し、「私はエリザベス・ウォーレンです。このメッセージを承認する。」とした。

大規模な法人税減税にもかかわらず、トランプはビジネスに対して決してフレンドリーではない。彼は、何十年にもわたって良好な貿易関係を結んできた国々からの品々に無意味な関税を課してきた。彼は中国との非生産的な貿易戦争を始めた。彼の反移民政策は、ハイテク企業から養鶏場まであらゆるものを傷つける。彼は最高経営責任者のジェフ・ベゾスがワシントン・ポストを所有しているため、アマゾンに対して脅しをかけている。彼は司法省の反トラスト部門を、友人に報い敵を攻撃する武器に変えた。彼の規制緩和の努力でさえ有害である。石油会社はより緩やかなメタン規則を望んでおらず、自動車会社はより低いガス排出規制を望んでいない。しかしいずれもトランプ政権が提案している。
債券王のジェフリー・ガンドラックは、2020年にも景気後退に陥る可能性が75%に上昇していると予測している。来年、景気後退があると仮定する。トランプと彼の経済チームが、国に与える経済的打撃を和らげるための適切な措置を講じると信頼できるか、明らかに信頼できないだろう。

しかし、エリザベス・ウォーレンはどうだろうか。ピーター・ナバロのような人物とは対照的に、彼女の周りには自分が何をしているのかを分かっている経済学者いることを誰も疑わないだろ。そう、彼らはジョー・スティグリッツのような「進歩的な」エコノミストになるが、それは彼らがウォール街の銀行家よりもミドルクラスの不況の影響にもっと関心を持つことを意味している。

JPモルガンチェースのCEOジェイミー・ディモン氏は、ウォーレン氏について「彼女がグローバルな銀行システムを完全に理解しているとは思わない。」発言した。ウォールストリートが彼女を恐れる理由は、彼女がそれをよく理解しているからである。

(出所:ブルームバーグ2019年10月1日「No, No, No. Elizabeth Warren Is Not a Socialist(ノー、ノー、ノー、エリザベス・ウォーレンは社会主義者ではない)」)

オバマ氏が大統領となった2008年にも、似たような議論があった。市民派弁護士であったオバマ氏に対して、ウォール街や市場は当初、医療や金融セクターに対してより厳しい規制がなされるのではとの見通しから懸念を強めていた。

ところが、オバマ氏が大統領に就任した2008年以降、米国企業は力強い成長を続け、長きにわたる景気拡大の階段を駆け上がってきた。オバマ氏は当初予想されていたよりもはるかに企業に友好的であったことは結果から明らかであろう。

先行きに対してオーバーシュート気味で推移するのは市場の特性である。よく考えて欲しい。たとえウォーレン氏が大統領に就任したとしても、上院において2020年に民主党が与党になるかどうかは未知数である。

(※1)Tracking 30 Investigations Related to Trump

石原順のトレンド5銘柄

以下はウォーレンリスクの少ないディフェンシブ5銘柄である。

ウォーレン氏が大統領に選出されることによって、逆にメリットを受けるセクターもありそうだ。ESGという観点からは、環境や社会に貢献する企業、企業統治の面で優良とされる企業が挙げられる。また、大手企業への風当たりが強くなることが想定されるのであれば、その反面、直接的なリスクの小さい小型株にはプラスに働くかもしれない。

エネルギー政策では、温暖化防止で温室効果ガス削減に政府の規制を導入するよう求めており、クリーンエネルギーとインフラ業界は恩恵を受ける可能性が高いセクターであろう。米国市場に上場する再生エネルギーを手がけるインフラ・電力会社をいくつかご紹介する。

エジソンインターナショナル(ティッカー:EIX)

米国の電力事業持株会社。傘下の南カリフォルニアエジソンは、米国最大の電力設備を保有しており、カリフォルニアの中央、沿岸、南カリフォルニアのエリアで約1,400万人にサービスを提供している。

出所:筆者作成

デュークエナジー(ティッカー:DUK)

1904年設立、大手電力・エネルギー会社。ノースカロライナ、サウスカロライナ、オハイオ、インディアナ、ケンタッキーの各州で電力事業を行い、天然ガスの輸送と販売を手がけている。

出所:筆者作成

エクセルエナジー(ティッカー:XEL)

最も経済的な方法でクリーンエネルギーを提供できるように、再生可能エネルギーに投資をしている。今後、2021年までに風力発電所を7つの州で新設し、風力発電の割合を55%に増やす計画。

  出所:筆者作成

CMSエナジー(ティッカー:CMS)

傘下のコンシューマーズ・エナジーを通じて、ミシガン州の顧客に電力と天然ガスを供給する州の最大のエネルギープロバイダー。

 出所:筆者作成

センプラ・エナジー(ティッカー:SRE)

カリフォルニア州で電力、天然ガス、その他エネルギー製品、サービスを提供する持株会社。サンディエゴ、南カリフォルニア等でサービスを展開する他、センプラ・リニューアブルでは再生可能エネルギーを手がける。

 出所:筆者作成

 

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