本場の中華の味を楽しむなら香港に限る
偶然、日本で中華料理のフルコースを昼夜と連続して食べる機会に恵まれた。通常、帰国する際は滅多に中華料理は食べないのだが、今回は訳あって中華料理を食することになった。しかも、日本有数のホテルで中華料理を楽しむ会であった。
いずれも素晴らしいメニューであり、とても美味しく、華麗なるコース料理の数々。参加された皆さまもとても満足されたようで何よりであったが、残念ながら心を揺さぶるような感動的な味には出合うことはなかった。
香港で中華料理を食べると時々「本当にこれ美味いな…」と心の底から思う味に出合うことがある。識者によると香港のバーナーの火力の強さの問題という説もあるようだが、香港クラブなどのプライベートクラブ・ホテル系レストラン・一般レストランという厳しいヒエラルキーの中で調理人も食べるほうの華人顧客も共に揉まれているからだという説もある。
つまり、香港の自由競争原理がここでも貫徹されている結果、「本場の味」が保たれているという説だが筆者はこの説に一票を投じたい。
何せ香港にはレストランと名の付く店が17,750軒(2018年度統計数値)あり、そのうち中華料理屋が4,890軒と全体の約30%程度を占めている。約5,000軒ものレストランが日々「美味さを競い」凌ぎを削って生き残りをかけているのであるから、感動を与える「美味さ」を提供するのは当たり前なのかもしれない。
競争原理が本場の味を作り維持しているのだ。デモで揺れる香港だが、本場の中華の味を楽しみたければ、香港に限る!のだ。
香港で存在感を示す「和食」、本場を再現できているのか?
一方、日本料理店も香港には1,360軒となんとファストフード店に次ぐ多くの店がある。イタリア料理屋270軒と比べて圧倒的に「中華」以外では、「和食」は存在感を示しているのだ。
数の上では存在感を示す香港「和食」レストランだが味はどうなのだろう。「本場の和食の味」を再現できているのか?香港の寿司屋ではなんとミシュラン三ツ星の店もあるようだが、筆者がそのような高い店にはいったことがない。
何せその手の店は日本円に換算すると福沢諭吉先生が何人も必要なので、帰国した際にコストパフォーマンスの良い日本の寿司屋にお世話になることにしている。
チャレンジしたことのある方によれば、やはり銀座の三ツ星とは何かが違うそうだ。食材そのものは、実は豊洲のセリで落とされたのが朝一便の飛行機で空輸されるので、銀座の寿司カウンターで並ぶのと同じ鮮度なのだが、本場銀座の寿司屋の味を再現したとはいかないそうである。
これはあくまで伝聞の域を出ないので注意を要するが、ロンドンの寿司屋は日本の味を再現するためにわざわざ水を日本から持ってきていると聞いたことがある。果たして、香港の寿司屋も水を日本から運んでいるのだろうか。
香港は日本からの農水産物の輸入額が世界一
さて食材といえば、香港は日本からの農水産物の輸入額が世界最大である。香港だけで2018年は2,115億円。中国本土の日本からの輸入額が1,338億円で世界第2位なのだが、人口760万人の香港が人口14億人の中国本土をはるかに上回る量を日本から輸入しているのは驚きである。
農水産物といっても品目別では1位が定番の真珠なのだが、興味を惹かれるのはホタテ貝(調整品を含む)である。2012年には21億円であったのが、なんと2018年には2倍以上の44億円に増えている。
中華食材としてよく香港ではお目にかかる食材であるが、無論、和食でもホタテ貝はよく見かける。中国本土でもホタテ貝は一番の輸入品目である。ホタテ貝は、華人社会では大の人気食材のようだ。
日本の農水産物が広く世界各国で輸入され、それぞれの国で本場の味を実現するのに一役買っているというのは日本人としてはちょっとした誇りだ。海外居住の長い筆者としては、昔ながらの自動車や精密機械だけでなく、農水産物の日本からの輸出が急速に伸びているのは大変ありがたい。
「食」を通じた地元の皆さんとの交流は、友好関係を深めるのに大いに資すると共に、海外に居ながらにして、日本の「本場の味」を味わえる機会が海外においても確実に増えていくからである。
香港でも、「本場の和食の味」が再現される日は意外と近いかもしれない(実はすでに再現されているかもしれないが、知らないのは筆者だけかもしれない…)。
なお、上記に記載した数値は、Jetro2019年データ並びに農林水産省食料産業局2019年5月公表データに基づく。