人に歴史あり、とはうまく云ったものです。昨晩イタリアンを大勢で食べたのですが、私は中国人のJの隣に座りました。Jは中国人ですが、アメリカ生まれアメリカ育ちで、所謂ABC(American Born Chinese)と呼ばれる、一見限りなくアメリカ人に近い中国人です。このJが、次から次に大皿で出てくる料理を、とても上手に、片手にスプーンとフォークを併せ持って、手際よくサッサとみんなに分けてくれました。上手だねぇ、と云うと、昔ウェイターだったからね、と笑って云うのですが、当然ジョークだと思いました。と云うのも、Jは金融界ではよく知られた人物で、或るアメリカの金融機関のかなりシニアなポジションも務め、今は世界中のとても大きないくつかの金融機関の社外取締役などもしており、イメージがあまり合わなかったのです。
しかし食事をしながら色々話をしていると、彼のお父さんはモンゴリアンで、様々な事情で中国からシンガポール、そしてアメリカへ移り住んだけれども、迫害され、更には国外に追放されかけた時に第二次世界大戦が始まり、兵役に応募することでアメリカ人として残ることが許され、戦争が終わって家族をひとり母国から連れてきて良いとなって、Jのお母さんとなる人を連れて来たのだそうです。Jはチャイナタウンに生まれ、ウェイターの仕事などをして学費を稼ぎ、学校に行き、アメリカの金融機関に就職が出来て初出社した時には、その格好から、厨房はあっちだよと、受付に云われ、しまいに警察まで呼ばれてしまったのだそうです。
Jは明るい、そして強い性格で、そんな時にも全く怒らず、恨まず、淡々と前と上を向いて仕事を続け、そしてその、とても由緒正しい金融機関で、とてもシニアなポジションまで登り詰めたのでした。J、カッコいいなぁ。そう云う人は、周りの人にも優しいです。余裕があるのでしょう。仕事はメチャクチャ厳しいですが。憧れますね、Jには。そんな、ちょっといいディナーを、昨日は楽しんだのでした。