米国のビジネストレンドを探り次の成長企業を予見する
ビジネス雑誌「フォーチュン」が発表する「100 Fastest-Growing Companies(急成長企業100社)」ランキングの2019年版が公表された。
このランキングは、直近3年間のEPS成長率、売上高の伸び、株価のリターンを元に順位づけされたもので、それぞれの年の顔ぶれを見ると、米国におけるビジネストレンドを探ることができる。また、次の米国経済を担う成長企業を予見することにもつながりそうだ。
フォーチュンのホームページで遡ることができる過去5年間(2014年から2018年まで)のランキングを見ると、フェイスブック(ティッカー:FB)やアマゾン(ティッカー:AMZN)、さらにはエヌビディア(ティッカー:NVDA)と言った日本の投資家にもよく知られた企業も上位にランクインしていた。
●2014年から2018年のフォーチュン急成長企業100社のトップ10
2019年のランキング1位と2位は?
では、今年2019年のランキングを見てみよう。今年のランキング100社のうち、テクノロジー企業が3割を占めている。足元では逆風も吹き始めているハイテクセクターではあるが、引き続き、存在感が高いということがわかる。企業設立からの経過年数は平均38年、過去3年間の平均年間収益率はS&P 500の14%に対して29%だった。
具体的にどんな企業がランクインしているのか見ていこう。20位までをまとめたのが次の表である。
●フォーチュン 100 Fastest-Growing Companies(急成長企業100社)2019年版
上位20社
セクター別に見ると、テクノロジーが9社と約半分、ヘルスケアが4社、メディアと小売が2社ずつ、その他、ファイナンシャル、ホールセラー、資本財が1社ずつ入っている。
設立年代別には、2000年以降に設立された企業が11社、1990年代が6社、1980年代と70年代に設立された企業も1社ずつ入っている。
2位のテキサス・パシフィック・ランド・トラスト(ティッカー:TPL)にいたっては1888年に設立された老舗企業だ。同社は、テキサス・アンド・パシフィック鉄道の破たんに伴い、鉄道会社が保有していた土地とそれに関連する石油および天然ガス等のロイヤリティ収入を管理するために設立された。
テキサス州で最大の土地所有者の1つであり、州西部の18郡に土地を所有し、「土地および資源管理」と「水道サービスとその運営」の2つが事業セグメントがる。今回、ランキング入りしたのは、2017年度と2018年度はシェブロン(ティッカー:CVX)から過去にわたって未収となっていたロイヤリティ収入があったことなど、特殊要因があったようだ(マネックス証券注:TPLは現在、取扱銘柄への対応を検討中です)。
1位は北京市に本社をおく中国企業のモモ(ティッカー:MOMO)。モモは2011年創業、中国において携帯向けのソーシャル・ネットワーキング・サービスを展開している。
ライブストリーミングサービスや近くにいるユーザーを見つけるロケーションベースのデートアプリなどを提供しており、中国版「ティンダー」としても知られている。また、先月末にはAIを使った顔交換アプリ「ZAO」をリリースし、その直後から中国のソーシャルメディアで急速に広がっているという。
ちなみに「ティンダー」は米国発のマッチングアプリで、その運営会社であるマッチ・グループ(ティッカー:MTCH)は2015年にナスダックに上場している。「ティンダー」以外にも、「マッチドットコム」や「OKキューピッド」などのマッチングサイトを運営している。マッチ・グループのサイトによると42の言語で、190ヶ国以上でサービスを展開しているという。株価はここ1年で50%ほど上昇している。
過去3年間の株価リターンが高かったランキング企業
では、話をランキングに戻し、過去3年間の株価リターンの高かった企業を数社ピックアップしてみよう。
まずは、6位にランクインしたペイコムソフトウェア(ティッカー:PAYC)の3年間のリターンは74%だった。今年に入り、株価は大きく上昇しており、直近の株価は250ドル前後となっている。
ペイコムはHCM(Human Capital Management)を提供する企業で、人事に関するソフトウェア全てを手がけている。今年2月に発表された2018年の第4四半期の業績は売上高が前年比32%増の1億5000万ドル、EBITDAは19%増加の5,750万ドルだった。
大手のワークデイ(ティッカー:WDAY)などが競合となるが、ペイコムは他社に比べて利益率が高く、CEOのChad Richinson氏によると、年間を通じての顧客維持率は90%を超えているという。また、このフォーチュンのランキングには2017年は2位、2018年は5位と、3年連続でトップ10以内にランクインしている。
続いて14位のヴィーバシステムズ(ティッカー:VEEV)。3年間のリターンは68%だった。
ヴィーバは製薬業界向けのCRM(Customer Relationship Management)をSaaS(Software as a Service)で提供する企業である。ヘルスケア領域に特化しており、この特定領域からのニーズは非常に強いと言う。
また、この領域に詳しくないとそもそも作ることができない上に、法制が複雑だったり、独特な販路を獲得するのが難しかったりと、真似されにくい傾向があるため、高い成長率を実現している。
8月に発表された第2四半期決算によると、売上高は2億6690万ドルと前年比27%の増加、営業利益は前年比40%増加の7,390万ドルと増収増益だった。株価は7月に170ドル台に乗せ高値をつけたが、直近では150ドル前後での推移となっている。
セールスフォース(ティッカー:CRM)やゼンデスク(ティッカー:ZEN)などが競合であるが、汎用的なCRMを提供している2社に比べて、ヘルスケア業界に特化することで差別化している。
16位のエッツィ(ティッカー:ETSY)は、手作り商品を販売するハンドメイドマーケットプレイスを展開している。3年間の株価リターンは86%であった。
しかし、この分野は現在、乱立状態にあり、既に市場は飽和しているとの指摘もある。エッツィは日本でもサービスを展開しているが、この分野には巨人アマゾンも参入、「ハンドメイドアットアマゾン」を開設しており、厳しい競争が予想される。
エッツィの第2四半期の売上高は1億8110万ドルと前年比36.8%増加したものの、マーケティング費用を含めた経費も約40%増加している。株価は今年3月に70ドル台まで上昇したが、その後は低下傾向が続いており、直近では50ドルを割り込む動きとなっている。
17位のアリスタネットワークス(ティッカー:ANET)は、大規模データセンター向けにソフトウェア制御されたクラウドネットワーキングソリューションを提供する会社である。
データセンター向けのネットワーク機器ではシスコ(ティッカー:CSCO)やジュニパーネットワークス(ティッカー:JNPR)が先行しているが、クラウドへのシフトが進むとともに、アリスタのネットワーク機器に対する需要が増えている。
アリスタはネットワークの構築をソフトウェアで制御する技術を提供しており、ネットワークの構成を変更したり、スケールを上げたりするときに安価で早くできることに強みを持っている。機器のつなぎ直しなどの物理的な手間が省けるため、業界のディスラプターとしてシェアが拡大している。
以下は調査会社ガートナーによる、ネットワーク機器業界の勢力図である。縦軸に実行能力、横軸にビジョンの完全性を示したもので、2019年7月時点では業界のリーダーとしての地位を獲得している。
●ネットワーク機器業界の勢力図
アリスタの株価は2017年以降上昇しており、直近では200ドル前後での動きが続いている。フォーチュンのランキングでは、2017年には10位、2018年には8位にランクインしていた。
数社をピックアップしてご紹介してきたが、前述のフォーチュンのホームページより100社を全て確認することができる。どんな企業が入っているのか、ぜひ、目を通してみていただきたい。ユニークな成長企業を見つけることができるであろう。
石原順の注目銘柄
MOMO(ティッカー:MOMO)
携帯用ソーシャル・ネットワーキング・サービスを展開、モモ・モバイル・アプリの他、ユーザー、顧客、プラットフォームパートナーに提供する様々な関連機能、ツール、サービスを展開、本社は北京市。
マッチ・グループ(ティッカー:MTCH)
「ティンダー」は米国発のマッチングアプリで、その運営会社であるマッチ・グループ(ティッカー:MTCH)は2015年にナスダックに上場している。「ティンダー」以外にも、「マッチドットコム」や「OKキューピッド」などのマッチングサイトを運営する。マッチ・グループのサイトによると42の言語で、190ヶ国以上でサービスを展開している。
ペイコムソフトウェア(ティッカー:PAYC )
米国のソフトウェア会社。配信クラウドベースの人材管理(HCM)ソフトウェア製品や、企業が採用から退職までの雇用ライフサイクルを管理するために必要な機能とデータ分析を提供する。カスタマイズを必要とせず、コアシステムに基づいて記録され、単一のデータベースで維持される。
ヴィーバシステムズ(ティッカー:VEEV)
ライフサイエンス業界向けのクラウドベースのソフトウェアソリューションを提供する。営業担当者の顧客関係を管理する「Veeva CRM」、文書の収集、管理、組織化などを管理する「Veeva Vault」、および医療提供者と組織のマスターデータを作成、維持する「Veeva Network」がある。
アリスタネットワークス(ティッカー:ANET)
ネットワーク機器メーカー。全世界約50ヶ国にて、クラウドサービスプロバイダーや大規模インターネット企業向けにイーサネットスイッチや、クラウドネットワークプラットフォーム、エクステンシブル・オペレーティング・システム(EOS)およびネットワークアプリケーションを提供する。
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