170万人参加のデモは平和的な行進に

逃亡犯条例改正案に反対して6月から始まった香港のデモは、8月18日にも行われ、これで11週連続となった。主催者として今回のデモを呼びかけた民主派団体「民間人権陣線」によると、参加者は170万人に達したとのことである。

これは、200万人が参加したとされる6月16日のデモに次ぐ規模である。今回のデモの特徴は、参加者が穏健かつ平和的に行進したことで、このところ目立ったデモ隊と警察とが激しく衝突する過激化したものとは様子が異なった。

過激化したデモに対する香港市民の違和感は強い。ともすればデモへの支持低下につながりかねないことを主催者が嗅ぎ取り、穏健なデモの実施を目指したことで、再度これだけの人数を集められた点は評価されるだろう。

デモの長期化で香港経済に影

先週発表された、香港の域内総生産(GDP)の第2四半期(4~6月)改定値は、前期比0.4%減となり、7月31日に発表された速報値0.3%減から一段と下方修正された。前年同期比では0.5%増加だったが、これも速報値の0.6%増からは下方修正である。

長引くデモによる抗議活動の影響が出始めたと言わざるを得ない。既に、香港域内の小売売上高は影響が出ており、小売・飲食などの業種では「急激な落ち込み」に見舞われている。

加えて、米中間の貿易量が関税措置のエスカレートで縮小する見通しが強まる中、貿易のハブである香港にも逆風となることが懸念される。短期的には香港経済がリセッション(景気後退)に向かっていると言わざるを得ない。

香港政府は、2019年通年での域内成長率の見通しを0.0~1.0%と、従来予想の2.0~3.0%から下方修正した。これを受ける形で、香港政府は財政出動を決め、8月15日に、約191億香港ドル(約2,600億円)規模の景気対策も発表した。

子ども(幼児~高校生まで)1人あたり2,500香港ドル(約33,800円)の子育て支援や1世帯あたり2,000香港ドル(約27,000円)の電気代補助などを支給し、企業向けでは公的手続きに関わる費用を1年間減免する。

8月18日には、陳茂波(ポール・チャン)財政長官が、「経済台風」にも備えるべきだとの表現で警告した。こうした見通しは当然ながら市場にとって懸念材料で、不動産価格の下落見通しや、株式相場に下押し圧力となっている。

解決策見えず、商業ハブの地位低下を懸念

過去を振り返れば、香港は、アジア通貨危機や新型肺炎SARSの感染拡大による危機、リーマンショックなど、幾たびもの危機を乗り越えてきた。2014年の「雨傘革命」の時も、最終的には経済的なダメージをそれほど引きずらなかった。

しかし、今回の一連のデモ抗議活動は、下火になる気配を見せていない。なにより、肝心の林鄭月娥(りんてい げつが)行政長官が、混乱を抑える解決策を何も示さないでいることは、混乱を長期化させるだけで、香港にとって大きなダメージになりかねない。

香港は、欧米から見ても、もちろん中国にとっても、安全かつ信頼できる商業ハブであり、中国本土と世界を結ぶ自由貿易の街として、ビジネス活動をするにあたり世界でも最も自由な経済体制を築きあげてきた。しかし、現在の状況が長引けば、その地位は失われ、香港の未来にとって致命傷となる可能性がある。

また、国際金融センターとしての香港の地位も揺らぎかねない。今のところ、金融機関には表立った動きはなく、金融の機能にも影響が出ていないが、このまま、もし抗議活動が続けば、外国人投資家や外国企業にとって香港への投資意欲は減退する。

そうなれば、金融業と不動産業が占めるウエイトの大きさから考えて、多くの香港人の雇用と生活が危うくなるだろう。香港政府には、小手先の経済対策よりも、今回の問題の根本的な解決に繋がる早急な判断を期待したい。