10年後は代替肉市場の規模が食肉産業全体の約10%に!?

ファーストフード大手のバーガーキング(レストラン・ブランズ・インターナショナル傘下・ティッカー:QSR)が今月8日から「インポッシブル・ワッパー」の販売を全米の店舗でスタートした。

この「インポッシブル・ワッパー」は植物由来の代替肉を製造販売するインポッシブルフーズ(非上場)のパティを使ったワッパーで、通常の牛肉を使ったワッパーよりも脂肪が15%、コレステロールは90%少ないという。ちなみに価格は5.59ドルと通常のワッパーより1ドルほど高い。

出所:インポッシブルフーズのホームページより

今年4月から米国のいくつかの都市で試験的に販売されていたが、「インポッシブル・ワッパー」を目当てに、これまで長い間バーガーキングを利用していなかった人やバーガーキングを一度も訪れたことのなかった人が店舗に足を運んだことから、全国販売に踏み切ったという。代替食品を使用した新製品はファーストフードチェーンにとって新たな顧客を開拓する起爆剤になりそうだ。

同様に代替食品を製造販売するビヨンドミート(ティッカー:BYND)の株価が5月の上場以来、IPO銘柄の中でも相対的に堅調に推移していることは皆さんもご存知であろう。

今や、インポッシブルフーズやビヨンドミートの製品は、伝統的な牛肉を扱うレストランでも提供されている他、アマゾン(ティッカー:AMZN)傘下のホールフーズのようなスーパーで購入することも可能だ。

出所:ビヨンドミートのホームページ

 フォーブスの記事によると、昨年(2018年)の食品関連への投資は、開示されている取引合計で14億5000万ドル、そのうち最大だったのは非上場ながらも1億1400万ドルを集めたインポッシブルフーズであった。ビヨンドミートは5,000万ドル(6番目)と、いずれも投資家から高い注目を集めていることがわかる。

出所:フォーブス

ブームになっている理由はいくつかあろう。牛肉を使ったバーガーよりもヘルシーであること、ビーガン(絶対菜食主義者)やオーガニックといった食に対する嗜好が多様化していること、さらには環境への負荷が牛肉に比べて少ないということもあるようだ。
ミレニアル世代が20代から30代に差しかかってきている。多様性や地球環境に対する意識が高いと言われるミレニアル世代が社会の中心となり、新たな流れができつつある。

インポッシブルフーズの創業者である生化学者のパトリック・ブラウン氏は、元々、ビーガンであったが、代替食品を作ろうと考えたきっかけは温室効果ガスの削減だったそうだ。食用に育てられている牛から排出されるメタンは大気中にとどまる時間は二酸化炭素より短いものの、温室効果については二酸化炭素よりはるかに高いことが指摘されている。

さらに、食肉用の家畜を育てるために資源が大量に投入されている。ビヨンドミートのホームページによると、ビヨンドのバーガーは牛肉から作られるバーガーと比べ、水で99%の削減、土地は93%の削減、温室効果ガスについては90%の削減、エネルギーは46%削減できるという。

出所:ビヨンドミートのホームページ

こうした代替食品の需要は急激に伸びている。7月の業界団体の報告によると、米国内での植物由来食品の売上げは過去1年間で11%増加、また英金融大手のバークレイズは、肉の代替物部門の市場規模が10年間でおよそ1,400億ドルに達すると予測している。これは世界の食肉産業全体の約10%を占める額だという。

この成長市場を、大手の食品メーカーもただ指を加えて黙って見ているだけではない。例えば、米国食品最大手のタイソンフーズ(ティッカー:TSN)は今年の夏から代替食品のナゲットを発売すると発表。今後、牛肉とえんどう豆のタンパク質を組み合わせたバーガーといった、これまでより肉の使用量が少ないブランド製品も販売する計画だとしている。また、ビヨンドミートに投資を行なっていた過去も持つ。

4月には世界最大の食品企業であるスイスのネスレ(スイス証券取引所に上場)が100%植物由来のバーガー「ガーデングルメ・インクレディブル・バーガー」を欧州と米国で販売すると発表した。さらに、コングロマリットのカーギル(非上場)は、動物細胞を使って肉製品を製造するメンフィス・ミーツ(非上場)にマイクロソフト(ティッカー:MS)やリチャード・ブランソン氏(英ヴァージングループの創設者)らと共に投資をしている。

また、ケロッグ(ティッカー:K)は大豆ベースの代替肉を製造開発する事業を展開しており、先日、ビーガンチーズバーガーの発売を発表した。食品加工のコナグラ・ブランズ(ティッカー:CAG)は7月、小麦や野菜等から作られた肉を使わないミートボール等を製造する企業を買収した。

シェイクシャックは第2のスターバックスになれるか!?

そうしたブームの中で、一線を画す立場を表明しているのがバーガーチェーンを展開するシェイクシャック(ティッカー:SHAK)である。ロサンジェルスタイムズの記事「Shake Shack holds back on vegan burger, not sure if fake meat is more than a fad(シェイクシャックはビーガンバーガーに抵抗、代替肉が単なる流行を超えるものになるのか見定める)」によると、CEOのランディ・ガルッティ氏はこの盛り上がりが一時的なものに終わるのかを見守っているようだ。

この熱狂が初期段階を過ぎて、そのあとも人々がこうした製品に戻ってきているとしたら、ぜひその理由を聞いて学びたい」と語った。現在のところ、ニューヨークを含む約20の店舗においてベジタリアンバーガーをテストしている。ガルッティ氏はビヨンドミートとそのライバルであるインポッシブルフーズとも話をしており、実際にネスレやタイソンフーズ等の大手がこの分野に進出しているのもウォッチしている。「われわれは彼らと競争しようとはしていないし、同じ製品を提供しようとはしていない。私たち全員が注目すべき魅力的なものではあるが、少し時間が必要だ。

(ロサンジェルスタイムズ「Shake Shack holds back on vegan burger, not sure if fake meat is more than a fad(シェイクシャックはビーガンバーガーに抵抗、代替肉が単なる流行を超えるものになるのか見定める)」)

シェイクシャックはニューヨークのマディソンスクエア(市所有の公園)にあるホットドッグスタンドから始まり、現在では海外の約100ヶ所を含む、ほぼ240ヶ所の店舗を持っている。

ホルモンフリーのアンガス牛100%のパティを使い、他のファーストフードチェーンに比べて高価なグルメバーガーを提供している。先日発表された4~6月期の決算は市場予想を上回る増収、増益となり、既存店売上高も市場予想に比べ伸びたことから買いを集めた。

直近の業績推移は以下の通りである。

出所:シェイクシャック資料より筆者作成

第2四半期決算時に公表された資料には次のように記されている。

2019年半ばを過ぎて、すべてのビジネスで強いモーメンタムが継続している。デリバリーを含むデジタルチャネルが最も貢献した。現在推進しているデジタル化をさらに強化し、顧客の利便性向上のためにグラブハブとの配送パートナーシップ契約を結び、今年中、もしくは来年の早期に稼働を開始する。

第2四半期は、当社のグローバルビジネスにとってこれまでにない大きな成果を遂げた年であり、1月に初めて中国本土、第2四半期にフィリピンとシンガポール、そして最近ではメキシコに進出した。香港や上海における結果を見ると、中国本土におけるシェイクシャックブランドの大きな成長機会を確信している。全体として、下半期に向けては事業全体で強力かつ前向きな勢いがあり、堅実な国内およびグローバルな事業開発のパイプラインがある。また、継続的なデジタルイノベーションを通じて新しいビジネスモデルを模索し、利便性を向上させて行く。

彼らの今後の成長シナリオは、顧客の利便性を高めるためのデジタルチャネルの強化とグローバル展開である。シェイクシャックが提携するグラブハブ(ティッカー:GRUB)は米国のオンラインフードデリバリー市場でドアダッシュ(非上場)とともにしのぎを削るトップ企業の1つ。

米国の調査会社PitchBookによると、オンラインフードデリバリー市場は2021年までに400億ドルに達すると予想されており、成長余地はまだ大きいと言えるだろう。

そして、海外展開について。日本国内にあるシェイクシャックの店舗においても未だに長い行列ができているのを見かけることがある。海外展開は現地パートナーとのライセンス契約であるが、第2四半期の決算において、ライセンス収入は42.9%増加しており、今後も高い成長が見込まれている。

シカゴトリビューンに「The best and worst chain burgers(美味しいバーガーチェーンランキング)」という記事があった。チェーン店のバーガーをその美味しさと価格からランキングしたもので、それぞれのバーガーの写真をクリックするとその評価とランキングが表示される。

シェイクシャックのバーガーは味もよく、より高価であるため、図の右上にプロットされている。

残念なことにカロリーが高く体に悪いと言われている食べ物は非常に美味しい。少しでも健康に良いものを食べるように意識はしていても長く続かないケースもある。インポッシブルフーズやビヨンドミートの人気の背景には、これまでの豆腐バーガー等に比べて、味も香りもジューシーさも本物のバーガーに近いという点があるようだ。

さてこのブームが一過性のものに終わってしまうのか、それとも新たな食品としての地位を確立するのか。ガルッティCEO同様、注視していきたい。

石原順の注目銘柄

米国は肥満大国である。健康志向や菜食主義の流行で代替肉市場は今後拡大していくだろう。しかし、この市場での独り勝ちは難しい。ビヨンドミートよりも有望なのは、ハンバーガー業界のスターバックスと言われるシェイクシャックであろう。

シェイクシャック(ティッカー:SHAK)NYSE <買い>

出所:筆者作成

ビヨンドミート(ティッカー:BYND)NASDAQ<押し目買い> 

出所:筆者作成

バーガーキング(レストラン・ブランズ・インターナショナル傘下・ティッカー:QSR)NYSE<押し目買い>

出所:筆者作成

ケロッグ(ティッカー:K)NYSE <押し目買い>

出所:筆者作成

コナグラ・ブランズ(ティッカー:CAG)NYSE<押し目買い>

出所:筆者作成

 

日々の相場動向については、ブログ『石原順の日々の泡』を参照されたい。