サステナブルファイナンスのルール作り

2015年にパリ協定やSDGsが採択されてから約4年が経ち、世界の持続可能性(サステナビリティ)の重要性が広く認識されるようになりました。

これらの国際的な目標の達成には、持続可能な発展に資する分野への適切なファイナンスが必要不可欠であり、欧州や米国を中心にESG投資やグリーンボンドの発行が急速に拡大しています(図表1)。

【図表1】ESG投資の推移
出所:Global Sustainable Investment Allianceを基に作成

これらのファイナンスを行う側の投資家や金融機関は、独自の基準を設けて投融資を行っているため、機関ごとに「持続可能な発展に資する分野」の対象が異なるような場面も見られるようになっています。

この背景には、まだ黎明期にあるサステナビリティの潮流において、世界共通の基準やルールが整備されていないといった事情があります。昨今はその統一化の必要性を感じた欧州をはじめとする一部の国々が、サステナブルファイナンスに関する共通の基準作りに取り組み始めています。

欧州のサステナブルファイナンス

欧州では、2014年から非財務情報開示指令によって企業に対してESG情報開示を義務付けるなど、日本や米国に先駆けて、サステナブルファイナンスに関連する基準・ルール作りに取り組んできました。

欧州委員会は、2016年にサステナブルファイナンスを検討するためのハイレベル専門家グループ(HLEG)を設置し、その最終報告書を基に提示したアクションプランの一部を法制化することを決定しました。

具体的には、2019年末までに「持続可能な開発に資する分野」を定義する分類システム(タクソノミー)について、規定・法令の採択をする予定です。このタクソノミーが規定されると、欧州域内における金融商品の基準(グリーンボンド基準やエコラベル)や銀行の健全性規制などにも反映されることになります。

また、域内の金融機関の活動はもちろんのこと、規定を遵守する欧州の金融機関による域外での投融資活動にも影響を及ぼし、副次的に欧州発祥の基準が世界的に波及していく可能性があります。

国際標準化に向けた動き

欧州内の議論とは別に、サステナブルファイナンスの国際標準化に向けた動きも見られます。

現在、国際標準化機構(ISO)では、下記のような各国からの提案について国際規格発行に向けた議論が進められている状況です。

・フランス・米国・中国から:環境分野に関するグリーンファイナンスの規格案
・英国から:より包括的な環境・社会・ガバナンス分野に関するサステナブルファイナンスの規格案

サステナブルファイナンスの国際標準化は、世界的な経済活動に対するお金の流れを決めるものであり、どの国・地域も自国産業への影響を考慮して、自らにとって有利な基準・ルール作りを望むことでしょう。

例えば、高効率火力やクリーンコール技術、原子力発電などを「持続可能な発展に資する分野」と見なすかどうかも提案国によって差異が見られています。国際標準化の議論が進む中、日本としても自国に不利な条件にならないように積極的に介入していく必要がありそうです。

 

コラム執筆:浦野 愛理/丸紅株式会社 丸紅経済研究所