香港デモ過激化は残念だが市民の「抗議」パワーに敬意

香港では、6月以来逃亡犯条例に対する抗議(Protest)デモが続いており、平和的運動のはずが時には過激な暴力行為に及び残念な状況となっているが、日本メディアではやや過剰に報道されているようである。

香港の街全体がデモでマヒしているような印象を与えるが、決してそんなことはなく、デモのない場所・日は至って平穏である。香港株式指数のハンセンインデックスは、6月・7月と28,400から28,800のレンジで動いておりこちらも抗議(Protest)デモとは無縁のように平穏である。

しかし、既に7週連続で政府への抗議(Protest)が続くと、住人の1人としては香港政府にはデモ隊との衝突に対して遺憾の意を表明するだけでなく、一刻も早く市民の抗議の声に応える一手を打って問題解決の方向に進んでほしいと思っている。香港市民の抗議(Protest)のパワーには敬意を表したいと心底思う筆者なのだが。

シンガポール男性は徴兵制で政府への「服従」を学ぶ

さて、先週は所用でシンガポールに行く機会があり、多くの方とお会いしたのだが、中でもある方の話が印象的であった。その方は生粋のシンガポーリアンで小さな証券会社の創業者であり、同氏と2時間ほど話す機会に恵まれた。

話題は自然と香港の「逃亡犯条例」改正案に対する抗議デモの話題になった。同氏によれば、シンガポールでは政府の定める条例に対して抗議デモが百万人単位で起こるなんてことは絶対考えられないという。

シンガポール政府の統制が厳しく、街の至るところに監視カメラがあり、かつ車の交通監視も厳しく、デモ行為そのものがあまり考えられない。さらに言えばデモが起きない一番の理由は、シンガポールの徴兵制にあるとのことだ。

18歳になるとシンガポール国籍を持つ者並びにPR(永住権)保持者の男子は、2年間兵役義務があり、その間に徹底的に上官(オフィサー)の命令に従うことを学ぶ。兵役期間中は週末の一時帰宅は許されるが、海外遠征もあり、時には南洋のジャングルをさまようこともある。

そして上官は50歳まで、一般は40歳まで年間40日を上限とする(普通は2週間程度らしい)Operationally Ready National Service (ORNS・予備役)という言わばアップデート研修みたいなものを毎年受けなくてはいけないのだそうだ。

つまり成人男子は18歳から40歳、場合によっては50歳まで徹底的にシンガポールという国に対して忠誠を誓う訓練が続くことを意味するという。

そこには、服従(Obedience)という言葉が一番ぴったりくると彼は語る。したがって政府に対して抗議(Protest)するという考えさえ思いつかないのが一般的なシンガポーリアンではないか?結果的には平和な国づくりがシンガポールではできたのだから、それはそれで1つの考え方だと彼は兵役には肯定的である。

自由と権利のために立ち上がるか穏やかな暮らしを楽しむか

シンガポールの証券市場はボラティリティの激しい銘柄には当局の指導が入る一部官制市場の様なところがあり、IPO市場も2018年は15件と小規模(香港は187件)だ。

証券会社を営む同氏の立場からは、シンガポールの証券市場が香港の証券市場に追いつける気が全くしないというのも残念なのではないだろうか。「でも、別に規模とか成長を追わずとも、この国の経済を証券市場が穏当に支えていればそれで良いのですよ。」と、同氏にニコッと笑われると意見する気もなくなった。

香港の基本法には、外交と防衛は北京中央政府の役割であり香港政府が担う問題ではないとある。結果的には香港には徴兵制もなく、経済・言論の自由を謳歌できる基盤だけが中国返還後に残ったのだ。

そして今、本来外国の侵略から香港市民を守るために香港に駐留する中国人民解放軍が、デモ鎮圧のために出動するのではとの観測記事が流れ、香港政府は否定するのに躍起になっている。

香港基本法に定める住民の基本的権利と自由の保障を損ねる法律に対しては、徹底的に抗議(Protest)し、街の混乱も辞さない香港市民。
政府の巧みなコントロールにより、政府に対しては服従(Obedience)し穏やかな暮らしを楽しむシンガポール市民。

どちらが市民一人一人にとって幸せか。考えさせられるシンガポール訪問であった。