親日国マレーシアで進む都市開発

マレーシアの首都クアラルンプールを約2年ぶりに訪問しています。クアラルンプール国際空港から市内中心部までは、ノンストップの急行電車で30分ほどなのですが、途中、クアラルンプールからの行政機能移転に伴い誕生した新行政都市のプトラジャヤやクアラルンプールの街のあちこちでは、高層住宅などの建設が進んでいます。

街には、計画的に片側4車線の高速道路が造られ、緑も多く残されるように配置されるなど、都市計画の苦心が伺われます。ただ、市街地の一般道路の渋滞には辟易しますが。

親日家を公言するマハティール首相が、前の首相任期中の22年間に推進したのは「ルックイースト政策」でした。それは、西洋(旧宗主国の英国)に学ぶだけではなく、戦後高度成長を遂げた日本(マレーシアからは東にあります)にも学ぼうという政策でした。

その影響もあり、マレーシアでは日本について親しみを感じる人が多く、日本製品のブランド力も高いようです。日本からの旅行者やマレーシアへの移住者も多く、公共交通機関の案内板に英語とマレー語に並んで日本語の表記が続いてあるのは、アジアでもマレーシアくらいではないでしょうか?

世界最高齢の首相が再任1年で次々と成果を出す

さて、昨年5月の総選挙でマレーシア国政の歴史の中ではマハティール首相(現在93歳)が初めて政権交代を実現し、首相に返り咲きました。その後、約1年が過ぎましたが、この間、日本にも度々来日し、中国とも直接交渉するなど外交を積極的に展開しています。首相としての激務を遂行し、国を引っ張ってきた世界最高齢の首相の姿勢には感服せざるを得ません。

マハティール政権が選挙で公約し、まず最初に実施した政策が消費税(6%)の廃止とサービス税の導入でした。歳入が減少することや消費がそれほど伸びないことが懸念されましたが、国内消費は予想外に好調を維持しています。一方で物価上昇率は1%程度に留まるなど、事前の懸念は当たっておらず、案ずるより産むが易しだったといえるかもしれません。

また、公約だった腐敗防止にも大胆に切り込みました。ナジブ元首相など前政権の要職にあった政治家や政府系企業トップの腐敗容疑を次々に起訴して、不正や腐敗に厳しい新政権とのイメージを国民に印象付けました。

そして、前政権で計画された大型公共投資の工事費の見直しも大胆に行っています。支援を約束していた中国との関係悪化も懸念されましたが、今年4月にはマハティール首相自身が中国を訪問しています。

習近平主席と直談判の末、一帯一路政策を支持する事と引き換えに、中国からはマレーシアへの大型投資継続の合意を取付けました。また、東海岸鉄道建設やシンガポールとクアラルンプールを結ぶ新幹線計画も再開に向けて動きが出始めています。

結果としては大幅なコストダウンが図られ、470億リンギットものコスト削減に成功したと評価されています。また、マハティール首相は就任後最初の訪問先として日本を訪れ、日本政府から円借款やマレーシアが起債する円建て外債に日本の支援を取り付けました。

その結果、2018年におけるマレーシアへの外国直接投資は、大幅に増加することとなりました。アメリカと中国の貿易摩擦が強まる中、外国からの投資は減ることが懸念されましたが、2018年の投資額は前年比約50%増加して、805億リンギットと記録的な投資額となりました。

経済成長率は低下、市場での評価は未だ上がらず

ただ、公共投資の大幅削減や大型プロジェクトの一時停止をはじめとする財政支出の減少により、マレーシアの経済成長率は、2017年の年率5.9%から2018年は4.8%へと低下しました。

2019年も成長率は、昨年度並みの4.5~4.8%と厳しい見通しです。また、消費税撤廃による歳入減少幅ほど、公共工事の大幅削減は果たせるはずもなく、財政赤字は対GDP比で2017年の3.0%から2018年に3.7%に増加しました。今後の経済成長をどう確保していくのか、持続的な成長戦略には外国からの投資促進頼みという側面も否定できません。

マハティール政権に対する期待と信頼は、1年前の選挙からまだ維持されているようです。マレーシアの経済成長は減速してはいますが、公共投資や政府内の無駄を削り、政府の効率化を進めることは、必要不可欠なことと国民の多くが受け止めています。

また、経済政策を優先し、外国からのビジネス誘致にも優遇策を展開し、外国直接投資を増やすことに奔走しているマハティール政権の姿勢には、経済界も外国投資家も概ね高い評価をしています。

そして、マレーシアは長期的な政策として、クアラルンプールをイスラム金融センターにするべく政策を展開しています。国際金融特区(TRX)の建設は進展しており、クアラルンプールの街の中心地にその一部が近々竣工します。

アジアでは、インドネシアと並んでイスラム教の国であるマレーシアは、世界を席巻しつつあるイスラムマネーの受け皿として大きな可能性を有していると感じます。

しかしながら、93歳になるマハティール首相自身の高齢問題が気がかりです。マハティール首相はナジブ政権打倒のため、先の総選挙でかつて確執のあったアンワル元副首相(71)と手を組みました。この1年間で、アンワル氏への禅譲の準備がそれほど進んでいるようには見えません。これをどう進めて政権を安定させるのか、マハティール首相の手腕に引き続き注目が集まります。

残念ながら、市場でのマレーシアへの評価はまだ芳しくありません。リンギットは期待されたようには反転しておらず、引き続き市場最安値圏にあります。マレーシアの株価も低迷から抜け出せていません。

しかし、現在進めている政策は時間はかかるものの、景気を押上げマレーシアを成長軌道に回帰させると予想します。投資を始めるには、長期視点で今が良いエントリー機会なのではないかと考えています。