本連載では、これまでも高齢社会の資産管理にまつわる話題を取り上げてまいりました。そんな中、5月22日に金融庁が公開した報告書案「高齢社会における資産形成・管理」で老後生活に「自助努力が求められる」という記載があったことをきっかけに、メディアやSNS上で「公的年金」と「自助努力」にまつわる様々な議論が起きています。
今回、森田聡子氏に「公的年金の見直し」をテーマに寄稿いただきました。これからの老後資産の備えについて考えるために、ぜひご一読ください。
年金制度は非常に危機的な状況から脱し、今年は見直しの年
国の年金については、「当てにならない」とか、「そのうち半分くらいに減らされちゃうのでは」といった悲観的な見方をしている人が多いのではないでしょうか。
日本の年金制度は、現役世代の保険料でリタイア世代への給付を支える“世代間扶養”方式を採用しています。今は現役世代2人強で1人の受給者を支えていますが、少子高齢化の進行で2050年には1.3人で1人を支える構造になるという予測が発表され、「それで本当に大丈夫?」と制度への信頼が根底から揺さぶられた経緯があります。
しかし、制度の破綻すら懸念された2004年、当時の小泉純一郎政権がドラスティックな改革を断行しました。現役世代への保険料を引き上げると同時に、リタイア世代への給付を抑制するシステム(マクロ経済スライド)を導入したのです。
結果として15年後の現在、年金制度は非常に危機的な状況からは脱しています。とはいえ定期的にメンテナンスをしていく必要があり、5年に1度見直し(財政検証)が行われることになりました。2019年はまさにその見直しの年に当たります。
繰り下げ受給で年金額への上乗せ利率は年率8.4%
見直しの結果を受け、新たな制度改正が実施されるのですが、次回の改正の目玉が、年金を受け取り始める年齢を最長75歳まで後ろ倒しできるようにすることです。
「75歳まで受け取りを延ばしたら、もらい始める前に死んでしまうかも……」と不安に思う人もいるかもしれません。しかし、平均余命から計算すると今年60歳の男性の2人に1人は84歳まで生きると予想されますし、繰り下げることによってオイシイ“おまけ”も付いてきます。75歳から受け取るとすれば、年金額はなんと通常の2倍(!)になる方向で検討されているのです。
今の60代には部分年金を受け取っている人も多いと思いますが、公的年金がフルに支給されるのは満65歳の誕生月からです。65歳になった時、再雇用などで収入を得ていて経済的な余裕があるとしたら、年金の繰り下げ受給を考えてもいいかもしれません。
現行制度では70歳まで1ヶ月単位で延ばすことが可能で、1ヶ月繰り下げるごとに65歳から受給した場合の金額に0.7%ずつ上乗せされていきます。年率にして8.4%! 今の金利情勢からすれば破格の利回りと言えるでしょう。
在職老齢年金は次回改正で廃止も視野に
現状、働きながら部分年金を受け取っている人には、在職老齢年金の制度が適用されている可能性があります。60~64歳では給料と部分年金の合計額が月28万円、65歳以上では給料と厚生年金部分(定額部分は除外)の合計額が月47万円を上回ると、オーバーした分の2分の1に相当する年金の支給が停止されてしまうのです。
その在職老齢年金についても、次回の改正で廃止も視野に入れた大幅な見直しが行われる予定です。
生産年齢人口の減少が止まらない今、「元気なシニアにはできるだけ長く働いてもらいたい」というのが国の本音です。定年が延長されるだけでなく、“同一労働同一賃金”の流れから、近い将来、シニア社員の賃金も現役並みに引き上げられることになるでしょう。
60歳を過ぎても在職老齢年金を気にせずがんがん稼ぐ。そして、働いている間は年金の受給を繰り下げておけば、将来もらえる年金額も大幅にアップするので完全リタイア後も安心ですよ! 次の年金改正案からは、そんな“シニアの近未来図”が浮かび上がってきます。