イミグレーションで体感する中国側の「厳しさ」
先日、香港でお客様イベントを開催したあと、ツアーを組んで深センを視察してきました。赤いシリコンバレーとも言われ、中国の中でも最も成長著しい街である深セン――その街を、自分の五感で感じることを目的に歩くだけでも、やはり、たくさんの発見がありました。現地に実際に行くと、他人から聞く何倍もの情報量と肌感覚を得られるものです。皆さんにも、ぜひお勧めします。
深センへは、香港から陸路のバスで移動しました。香港の九龍半島側の尖沙咀(チムシャツイ)からは、車で30分ほどで国境に到着します。「一国二制度」で「高度な自治」を行っている香港と中国本土間の往来は、他国に行く時と同様に、パスポート(または入境証)を持って、イミグレーションを通過します。深センに入るときも、同様です。
ちなみに、昨年、香港と広州は高速鉄道で結ばれましたが、香港出入国時に西九龍駅でイミグレーションを通過しなければなりません。
イミグレーション1つをとっても、香港と中国では印象が全く異なります。まず、感じるのは、中国側の「厳しさ」です。監視カメラの数の多さと審査場の雰囲気、職員の態度の厳しさは、全く異なっており、これを体感するだけでも、現地に行った甲斐があるというものです。
筆者は、香港と深セン間を何度も出入りしていますが、深セン側から香港へ戻ってくると、ホッとします。
成長のスピードが速く、深セン湾地区はこの5年で開発
イミグレーションを通って、街に出ると、今では香港と比べても変わらないほど近代的な建物が立ち並んでいます。道路も広く車線も多く、きれいに整備・清掃された都市がそこにあります。PM2.5を有名にした排ガスによる大気汚染も、週末ということもあり今回はそれほど感じられませんでした。
走っているタクシーもバスも、小綺麗なものばかりでした。聞けば、営業用の車は、電気自動車化が一気に進められていて、ガソリン車が珍しくなってしまったのだそうです。おまけにバイクまで電動が主流になっていました。歩道まで、デリバリー業者の電動バイクが音もなく乗り込んできて、危なっかしく、猛スピードで駆け抜けていくあたりは、中国本土らしいなと苦笑いしましたが。
20年前、10年前、5年前の深センの記憶もありますが、それぞれ全く異なります。それほど、成長のスピードが速いということでしょう。5年前には何もなかった深セン湾地区は、新しく開発されたところですが、オフィスやショッピングモール、高層高級マンションやラグジュアリーホテル、病院などが整然とできあがっており、地下鉄も開通していました。
この近辺のマンション価格は日本円にして1~2億円するそうです。しかし、引き合いは絶えず、好調に売れているそうです。経済成長を続けるということと、都市化により人口がまだ増えるということの意味を改めて痛感しました。
バーコード決済は路上の屋台でも
ショッピングモールの中にある、スーパーマーケットに入ってみました。そこは、日本人の感覚でも「高級スーパー」のイメージです。店内は明るく、ディスプレイは見やすく、製品や価格表示もデジタル化されていました。生鮮品は、新鮮で、きれいで、パッケージもおしゃれでした。
至る所で、日本のデパ地下さながらの試食も勧められ、口にしましたが、中国産の野菜や果物もおいしかったです。価格も日本と変わりません。数年前まで、安かろう悪かろうだった深センのスーパーのイメージは全くありませんでした。
買ったものは、すぐに配達を手配することができ、買い物袋ごと、売り場の天井に張り巡らされたレールをモノレールのように伝ってバックヤードに吸い込まれていきます。そこは、アリババの系列会社が運営するスーパーなので、当然のように支払いはアリペイか専用アプリのみで、現金払いは別途手続きが必要でした。
決済は御多分に漏れず、あらゆる店で、バーコード決済が主流になっています。リヤカーでヤシの実を売っていた路上の屋台でも、アリペイかウィチャットペイでした。
地下鉄の乗り場でも、皆、バーコードをかざして改札を通り抜けていきます。昔ながらに現金で専用トークンを買って地下鉄に乗ろうと試みると、「この改札には、トークンを売る発券機がないので、反対側の改札に行け」と、中国らしくぶっきらぼうに冷たくあしらわれました。
シェアバイクはもはや時代遅れのビジネスに
ショッピングモールの外には、日本でも話題になった「シェアバイク」が置いてありました。これは、専用自転車置き場においてあるシェア用自転車を、デバイスを鍵にして借りるものです。
しかし、しばらく見ていても、借りて乗ろうとする人は現れません。実は、この自転車は持ってみるととても重く、フレームは鉄でできています。従って、重くて乗り回しにくく、乗り心地はどう見ても良さそうではありません。
かつては、自転車の効率的な運用による都市の混雑緩和と鉄の消費を名目に、政府から多額の補助金が助成されていました。それで拡大したというのが実態のようです。ユーザーの使い勝手の悪さと、補助金なしでは低料金過ぎて成り立たないビジネスモデルのおかげで、深センではもはや時代遅れのビジネスらしいです。
夕暮れ時に、少し庶民的な地区に移動して、勝手に日本人が「中国の秋葉原」と呼んでいる電気街を歩きました。ドローンやら、今話題のファーウェイのアンテナショップや携帯電話のアクセサリーショップを冷やかしましたが、人の多さと街の若さ、価格は高くはないけれど消費意欲の高さは、日本とは違うと感じ入るところでした。
夕食は、一行で現地の人にも人気という北京料理の店に行きました。店員の態度は、サービス精神がみじんも感じられず、中国らしい洗礼を浴びましたが、料理は前菜からメインの北京ダックまでどれも、見た目も良く、美味でした。大勢でビールや白酒(中国でよく飲まれる度数の強いお酒)までいただいて、お会計は1人2,000円にも満たないほど。
帰りに店を出るときには、現地の人が長蛇の列を作って順番を待っていました。人気店だったようです。とても満足しました。
こうした店の雰囲気と値段は、数年前とあまり変わっていません。変化ばかりを目の当たりにした1日でしたが、変わっていないところもあるんだなと、少し安心して深センの街を後にしました。