有権者9億人の総選挙、「与党」vs「野党」の激しい対立
4月11日からインドで総選挙の投票が始まった。有権者の数だけで、約9億人という世界最大の選挙である。
選挙では下院の543議席がすべて小選挙区で争われるが、投票はなんと選挙区別に7回に分けて実施される。最終投票日は5月19日で、5月23日に開票が終わり、勢力図が確定するまでに6週間もかかるのである。今後5年間の政権を誰がどう担うのか、大変注目度は高い。
2014年に行われた前回の総選挙では、モディ現首相が率いるインド人民党 (BJP) が282議席を獲得して、30年ぶりに単独で下院の過半数を制した。こうして発足したモディ政権は、安定して政権運営を担うという期待とモディ氏への高い人気を背景に、大胆な改革をいくつも推進して、ある程度、国民の期待に応えてきた。
一方で、農業問題や失業問題、経済改革などを巡っては、既得権益との軋轢もあり、今回の総選挙でも、激しい対立が見え隠れする。
与党インド人民党と野党国民会議派の対立は先鋭化してきており、ソーシャルメディア上には侮辱的な発言やフェイクニュースが飛び交っているとされる。
南部アンドラプラデシュ州では治安部隊が厳戒態勢を敷いたにもかかわらず、投票所の前で、対立する地方政党の党員同士が衝突を起こし、3人が死亡した。他にもインド国内数ヶ所で爆破があり、死傷者が出ているほどである。対立は激しいが、その分、今回の総選挙は国民の関心も非常に高い。
2018年12月に実施された地方の州議会選挙では、有権者の不満が表面化した格好となり、与党インド人民党は主要な州で議席を失った。市場も、インド人民党の地方選挙での苦戦が続いたことから、モディ政権の存続可能性が低下したと見て、調整色を強めていた。
モディ政権継続予測に市場が戻り局面を鮮明に
野党勢力は、総選挙には、統一戦線を組んでモディ政権に対抗することも期待されたが、結局実現しなかったことで、インド人民党は再び優勢な状況にあるとの予想は増えている。
2019年2月にカシミール地方でインド治安部隊への自爆攻撃があり、同部隊の隊員44人が死亡した。その後、パキスタンを拠点とする過激派勢力が犯行声明を出している。これに対し、モディ政権が強硬な対抗措置を採り軍事行動に出たことで、潮目が変化した。
選挙直前の世論調査などからは、インド人民党の勢力は選挙前の勢力には及ばないものの、下院の過半数を再度占める可能性が高まっているようだ。市場もこれに応じるように戻り局面を鮮明にしてきた。
インド人民党が下院での多数を維持し、モディ政権が継続することで、国内政治の安定感が増せば、構造改革継続への期待や経済政策の継続性がインド経済への評価を高めるシナリオを市場は織り込み始めている。
インド経済自体は、着実に成長しており、構造改革の進展から、成長率はさらに加速すると予想している。IMF(国際通貨基金)が発表した世界経済予測(4月)では、インドの成長率は2019年度が+7.3%、2020年も投資の回復が見込まれ+7.5%まで上昇すると予想されている。
景気拡大局面から企業業績も拡大が続く見込みであることに加え、内需が主導するインド経済は、相対的に米中貿易摩擦の影響を受けにくいと考えられる。予想PER(株価収益率)からすれば、株価に割高感がないことも、注目点である。
インド中央銀行の金融緩和姿勢も明確になってきており、政権交代やインフレ率上昇といった懸念が払しょくされれば、株式市場を取り巻く環境は良好な状態が続くだろう。長期でのインド経済の成長の可能性はもちろん大きいが、中短期でも、引き続き強気の姿勢で臨むべきであろう。