米当局が年金PKOで6.6兆円投下

ムニューシン米財務長官は先週末に米銀大手6行トップに相次いで電話し、各行の流動性状況などを確認した。長官が23日、ツイッターで明らかにした。先週の米株式相場は急落し、連邦政府機関も一部閉鎖された。

米財務省は23日の声明で、「各行の最高経営責任者(CEO)は消費者やビジネスマーケット、他の全市場業務への貸し出しに使われる流動性は潤沢だと確認した」と説明した。
(12月24日 ブルームバーグ)

このニュースを見て、「ああ、NY連銀はまた今年の2月のようなステルスQE(流動性供給)をやるかもしれないな。そうなると、その後の市場は一時的にではあるが、大きく反発する可能性もある」と、筆者の周辺の運用者はコメントしていた。

2018年2月5日のNYダウ1,500ドル安やVIXのETNの取引停止という流動性パニックに対処するため、パウエルFRB議長はステルス市場介入に動いた過去がある。米連銀は今年の2月の株価急落時に、1週間で110億ドル分のMBSを買い入れた。

この資金で金融機関はリスク商品の買い支えに動き、パウエル・プット(FRBが金融緩和策という形で市場に対して助け船を出して相場を支えてくれるだろうという期待や安心感が、下落リスクを軽減するプットオプションと同じような役割を果たす)により、NYダウはその後上昇に転じた。

ステルスQE!?米連銀は2018年2月に1週間で110億ドル分のMBSを買い入れた
(債券買い入れ=流動性供給)
出所:seekingalpha.com 「Is The Fed Back To 'Quantitative Easing?」

ムニューシンの電話報道から当局が動くのではないかという観測が出ていたが、案の定、12月26日のNYダウは爆上げとなった。上げ幅が1,086ドル高となり、1日の上げ幅としては過去最大である。ブルームバーグやゼロヘッジの報道で、 12月26日のNYダウの史上最大の上げ幅1,086ドル高は、6.6兆円を投下した年金PKOだったことが判明している。これはPPT(金融市場に関するワーキンググループ)による年金を使った株価操作ではないかとの観測が出ている。

劇的な米株反転、年金基金が四半期末の大規模調整で6.6兆円投下か

27日の米株式相場は取引終盤プラスに転じ、日中安値からの回復の大きさが2010年以来最大となった。投資家らはこの急反転の解明に努めているが、少なくとも1人のアナリストは、12月に入ってからの急落を受けて年金基金が株式を大量に買い入れたためだと分析している。

S&P500種株価指数は一時2.8%安まで下げた後、終盤にかけて大きく戻し、反転は8年ぶりの大きさとなった。この急激な方向転換は、今月600億ドル(約6兆6200億円)の株式購入資金を抱える年金基金が、四半期末を控えて持ち高を調整したことを反映した可能性があると、ウェルズ・ファーゴのプラビット・チンタウォンバニッチ氏は分析した。600億ドルというのは過去にあまり例を見ない規模だという。
(ブルームバーグ 2018年12月29日)

そして、1月4日にはパウエルFRB議長とイエレン、バーナンキ両元FRB議長との討論会が開催された。パウエルFRB議長は、「とりわけインフレ指標がこれまで落ち着いている中で、われわれは経済動向を注視しつつ、忍耐強く当たる」「利上げは既定路線ではない」「必要に応じて常に政策スタンスを大幅に変更する用意がある」と述べ、2016年当時と同様、金融引き締めの停止もあり得るとの考えを示唆した。

また、辞任観測も出ていたパウエルFRB議長は、「仮にトランプ大統領から辞任を求められても辞めるつもりはない。トランプ氏と会談する予定はない」と発言した。この討論会を好感し、この日のNYダウは746ドル高で取引を終えた。

パウエルFRB議長とリフレ派イエレン、バーナンキ両元FRB議長の討論は、市場を安心させるためのパフォーマンスで、これがPKO第二弾である。だが、FRB議長が株価をみながら政策をおこなっていると市場からとられると、今後、FRBは利下げの催促相場に直面することになるだろう。

市場にはパウエル・プットに対する期待、あるいは警戒があるようだが、振れの大きい相場なので、買い方も売り方もトレーリングストップ注文を入れておくべきである。大恐慌時やリーマンショック時のチャートをみても、急落後の最初の戻り(B波)が大きい。売り方はその点は考慮しておく必要があろう。

相場は恐怖と欲望という2つの感情で動く

CNNのFear&Greed Index (恐怖と欲望指数) は、投資家心理の7つの指標を分析し、市場の欲望と恐怖の度合いを示した指数である。

Fear&Greed Index (恐怖と欲望指数) 2019年1月4日

Fear&Greed Index (恐怖と欲望指数) は12月26日には4と市場の極端な弱気を示唆していた。前日の12月25日には2まで下がっていた。

Fear&Greed Index (恐怖と欲望指数) 2018年12月26日
Fear&Greed Index (恐怖と欲望指数) の過去の推移(2016年~2018年)


筆者の知人のN氏によると、アルゴリズム系のファンドの中には、CNNのFear&Greed Index (恐怖と欲望指数) を相場の押し目買いポイントとして使っているところが多いのだという。NYダウの週足にFear&Greed Index (恐怖と欲望指数) が極端な弱気となったところをプロットしてみると、以下のようなチャートが出来上がる。

NYダウ(週足)とFear&Greed Index (恐怖と欲望指数) が極端な弱気になったポイント
出所:筆者作成

相場は恐怖と欲望という2つの感情で動く。どのような感情が今市場を支配しているのか?CNNMoneyのFear&Greedインデックスはそれを明確に教えてくれる指標である。

石原順の注目銘柄

マイクロソフト(ティッカーシンボル:MSFT):<ストップを置いて押し目買い方針(次の逆張りシグナル待ち)>

【図表1】マイクロソフト(日足)逆張りのATRチャネルトレードモデル
上段:ボリンジャーバンド(21)±0.6シグマ
中段:ADX(14)・標準偏差ボラティリティ(26)
下段:売買シグナル 買いトレンド=グリーン・売りトレンド=オレンジ
出所:パンローリングカスタムチャート

P&G(ティッカーシンボル:PG):<ストップを置いて押し目買い方針(次の逆張りシグナル待ち)>

【図表2】P&G(日足)逆張りのATRチャネルトレードモデル
上段:ATRチャネル・逆張りシグナル
下段:ADX(14)・標準偏差ボラティリティ(26)
出所:パンローリングカスタムチャート

テスラ(ティッカーシンボル:TSLA):<戻り売り方針>

【図表3】テスラ(日足)逆張りのATRチャネルトレードモデル
上段:ATRチャネル・逆張りシグナル
下段:ADX(14)・標準偏差ボラティリティ(26)
出所:パンローリングカスタムチャート

フェイスブック(ティッカーシンボル:FB):<戻り売り方針>

【図表4】フェイスブック(日足)逆張りのATRチャネルトレードモデル
上段:ATRチャネル・逆張りシグナル
下段:ADX(14)・標準偏差ボラティリティ(26)
出所:パンローリングカスタムチャート

ゴールドマンサックス(ティッカーシンボル:GS):<戻り売り方針>

【図表5】ゴールドマンサックス(日足)順張りの標準偏差ボラティリティトレードモデル
上段:ボリンジャーバンド(21)±0.6シグマ
中段:ADX(14)・標準偏差ボラティリティ(26)
下段:売買シグナル 買いトレンド=グリーン・売りトレンド=オレンジ
出所:パンローリングカスタムチャート


日々の相場動向については、ブログ『石原順の日々の泡』を参照されたい。