米中間の通商合意への期待が相場を支える

この夏以降、米中間の通商交渉ははかばかしくないと伝えられてきた。だが、11月1日に米中両首脳が電話会談を行い、貿易問題解決に向けた協議を米中間で進めることで一致したと伝えられたことで、急転し、合意形成の可能性に期待が高まっている。

11月末には、アルゼンチンで、トランプ大統領も習近平国家主席も出席を予定するG20首脳会議が開催される予定である。「中国はディールを望んでいる」とトランプ大統領は語り、中国との「ディール」を成立させることに意欲を示している。

この数ヶ月、まともに交渉の席についてもこなかったトランプ政権の態度からすれば、11月末の米中首脳会談で、腹を割って話し合い、なんらかでも合意が成立すれば、重要な進展として、市場からは歓迎されるだろう。少なくとも、今月はG20まで、米中間で何らかの通商合意が実現することへの期待が相場を支え続けるのではないだろうか。

そんな中、上海で11月5日から「中国国際輸入博覧会(China International Import Expo)」が開幕した。開幕式には、習主席が自ら出席して演説するという力の入れようであった。

習主席は、諸外国との商取引における障害を取り除き、輸入を拡大するために中国がさらに努力をしていくと表明した。他にも輸入促進のための国内消費の刺激や輸入品への関税の削減、通関手続きの簡略化に加え、知的財産権侵害への厳罰化など、中国が輸入対策を強化することに前向きな姿勢を示した。

中国は、現在の13次5ヶ年計画にも記されている通り、長期的には「新常態」すなわち、内需主導型の経済への移行に取り組んできている。つまり、改革開放以来これまでの輸出主導による経済の急成長から、国内消費が主導する経済成長へのモデルチェンジを図っているのである。トランプ大統領の中国たたきで、シフトチェンジをしているわけではなく、本来舵を切る方に行くだけ、ということもひとつの事実である。

通商摩擦が解消に向かうまでの長い道のり

一方で、短期的には、中国が内需主導型経済へ移行するには、まだ時間を要することも事実である。そうなると、やはり中国経済のダウンサイドリスクは気がかりである。中国政府としては、このリスクへの手当てを財政・金融政策で施しながら、経済構造の改革を進め「新常態」の実現と貿易黒字の削減に取り組むための時間を稼ぐことになるだろう。

貿易黒字を削減するには、輸入促進は重要になる。課題は、それが目に見える成果となるまでには、時間が掛かるということだろう。10月12日に発表された中国の貿易統計(9月)では、対米貿易黒字は341億ドル(約3兆8300億円)とむしろ拡大している。

かつての日米貿易摩擦を思い起こしていただきたい。日米交渉は、議論と妥協を繰り返し、思うようにはついてこない黒字削減の成果に繰り返し向き合い、長い時間を掛けた問題となった。

米中貿易摩擦も同じことだろう。トランプ大統領が提起する貿易相手国への黒字の削減は、解決までに時間の掛かる長く厳しいプロセスとなるものである。米中の通商協議の妥協に向けて、中国は、輸入拡大への数量もしくは金額的なカードを切る必要はある。だが、実際に通商摩擦が解消に向かうには、まだまだ時間的には先の話になると考えておいた方がよさそうである。