9月初めに、マニラに入り、現地の状況を見る機会を得ました。フィリピンについて皆さんは、どんなイメージを持っていらっしゃいますか?フィリピン経済についてはどうでしょうか?停滞している国、まだ発展段階にある国、これからの国というイメージでしょうか?
実際には、フィリピン経済は、アセアンのタイやマレーシアに比べると、工業化では遅れを取ってきました。国内の財閥や地主などによる経済の寡占化や、国内産業保護政策によって外資の参入障壁が高かったこともあり、産業振興や工業化政策では、出遅れてしまったのです。1980年代は実質GDP 成長率で年平均2.0%、1990 年代に入っても同2.8%と低成長にとどまり、アセアンの中では、劣等生的な位置づけに甘んじてきました。
その間、フィリピン国内では、産業が育たず、雇用機会も増加しなかったために、英語を話せることを利点として、フィリピン人は海外に職を求めました。香港でも、家政婦さんとして働いている人にはフィリピン人が多いのですが、国外で雇用されるフィリピン人(OWF)人口は2013年には、1,024 万人(人口の約1 割)に達したという統計もあります。OWFがフィリピンに送金する総額は2015年には256 億ドルと、なんとGDP の1 割弱に相当するほどでした。
しかし、そうした経済の構造を変えつつあるのが、2000 年代に入ってから成長著しいBPO(Business Process Outsourcing)産業です。主にアメリカやオーストラリアなどの国で業務を展開するさまざまな業種の企業が、フィリピンをBPO先として、各種の業務プロセシングを外部委託するようになったのです。背景には、フィリピンの人口が2014 年に1 億人を突破した上に、平均年齢は24.2 歳と若く、①若年労働力を豊富に確保できること、②人件費が相対的に低い、③英語を話せる労働人口が豊富であることが挙げられます。BPOのファンクションとしては、コールセンターやトランスクリプションが主流ですが、ゲームやアニメーション制作、音楽やカラオケコンテンツの開発など、多種多様に拡大しています。
IBPAPという業界団体によると、2014 年には業界全体の売上高は184 億米ドル、雇用者数は約103 万人でしたが、2016 年には売上高250億米ドルに達し、雇用者数も130万人に拡大しました。つまり毎年10万人の雇用を新たに産んでいるのです。今後、2022年には、BPO業界で180万人を雇用することになると予想されています。年率成長ベースではこれまでは、年15%成長してきましたが、2022年時点で、年8%成長を見込んでおり、規模の拡大に伴って年率ベースでの成長は小さくなるように見えるものの、まだまだ業界全体の成長余地はあるとのことでした。また、近年では、マニラ都市圏以外でも分散してBPOセンターが稼働し始め、フィリピン全域への波及効果がみられるとのことでした。
現在では、BPO業界のGDPシェアは、フィリピンのGDPの約1割に達します。それだけの雇用が生まれることで、国内での消費も増えますし、なにより、国外へ働きに出るという構図が変化していきます。ドゥテルテ大統領の政策は、犯罪対策ばかりが目立ちますが、フィリピン国内では、投資プロジェクトも進み始めており、今後、一段の成長が期待できそうです。

Data Source: IBPAP - IT & Business Process Association Philippines

コラム執筆:Nippon Wealth Limited, a Restricted Licence Bank (NWB)
世界三大金融市場の一つである香港にて、個人投資家に、「世界水準の資産運用商品」と「日本水準のサービス品質」、個人向け資産運用プラットフォームとしての「安心感」を併せて提供している金融機関。マネックスグループ出資先