先週、日本から20年来の友人であるフランス料理シェフT氏が香港に恒例の「食の旅」にやってきた。中華料理を二人で堪能した後ワインバーに行こうということになり、T氏は「香港だと中国本土産のワインが多いのでは?」と言っていたが、筆者は「いや香港のワインを甘くみてはいけない」と言っているうちに、お客が我々以外に誰もいない古めかしい感じのワインバーにふらりと入っていた。バーカウンターに一人ポツンと座っていた初老の西洋人男性がオーナーだという。ハウスワインでもいいので軽いものをと頼む。そのオーナーのR氏曰く「私は、欧州に6つのワイナリーを保有してアジア全域に自分のワイナリーのワイン以外も販売している。深圳の保税倉庫にワインは17百万本保存している。今後のアジア市場のワイン需要増を見込んで16年前にスイスから移住してきた。貴方たちの飲みたいワインはおそらくすべてお答えできる。」

 

あまりの壮大なる話と饒舌な語り口に半信半疑で聞いていると、R氏はワインセラーから一本数十万円もするようなワインを次から次へと持ってきてはこれを飲まないかと勧め、そして電話帳のような厚さのワインリストを見せてくれた。ボルドーの5大シャトーやブルゴーニュの黄金の丘のワイン達がずらりと並び、流石のフランス料理のシェフT氏も溜息しかでてこない。なんだろうこのリストは・・・と嘆息するばかりである。

 

実は、そんな膨大なる貯蔵を誇るワインバーが街の中心から外れた住宅街にぽつんとあるのには訳がある。香港は2006年までワインには酒税が80%!と高関税が課されていたが、その高関税を2008年に完全撤廃して、アルコール度数30%以下の酒税はゼロまで下げられた。つまりワインも含めたアルコール度数30%以下の酒は、今の香港には酒税がないのである。下げられた年にいきなり香港のワインの取扱高が前年の2.4倍に伸び、その時の香港政府は10年後2017年に世界最大のワイン消費地はアジア地区になると予想していた。そして2018年の香港は、世界最大のワインハブとして膨大なるワインを取り扱っているのである。香港政府の商才溢れる決断には、驚きを隠せない。現在、香港と中国本土の間にはCEPA(経済貿易緊密化協定)という関税優遇策もとられており、いったん香港に輸入されたワインはそのまま世界第2の経済大国中国本土に持ち込まれる訳である。香港貿易発展局によれば2017年香港全体のワイン輸入の73%がヨーロッパから、内60%がフランスから輸入されている。一旦香港に輸入されたワインの83%が中国本土に再度輸出されているという数値を見ても香港が「ワイン」のゲートウェイとしての役割を果たしているのがわかる。規模においても2017年60百万リッター(ワイン82百万本分に相当)のワインを輸入している。香港市民は720万人であるから香港からの輸出がなければ、市民全員が毎月1本のワイン瓶を飲み干している勘定になる。

 

香港では中国本土産のワインが多いのではと言うシェフT氏の予測は見事裏切られ、電話帳のようなワインリストがフランスワインで占められているのも納得が行く。香港ワイン&ダイン・フェスティバルが今年も10月25日から開催される。是非読者の皆さんも、世界一のワインが集う香港へお越し頂ければと思う。

 

コラム執筆:Nippon Wealth Limited, a Restricted Licence Bank (NWB)

世界三大金融市場の一つである香港にて、個人投資家に、「世界水準の資産運用商品」と「日本水準のサービス品質」、個人向け資産運用プラットフォームとしての「安心感」を併せて提供している金融機関。マネックスグループ出資先