昨日(4月17日)、国際通貨基金(IMF)は恒例の世界経済見通し(WEO)を発表し、今年と来年の世界成長率予測を1月時点の予測と同じ3.9%に据え置きました。米国やユーロ圏の成長率予測は1月時点よりも上方修正しましたが、それにも拘らず「全体は横ばい」としたのは「上振れリスクと下振れリスクが概ね均衡している」が故ということのようです。

気になる下振れリスクというのは「金融環境が急激に引き締まることや、世界的な経済統合に対する一般大衆の支持の低下、貿易面での緊張の高まり、保護主義的な政策に移行するリスク、さらには、地政学的な緊張」などであり、ことに米中両国間の通商問題をはじめとする貿易摩擦のリスクを大いに警戒していることが窺い知れます。

とはいえ、IMFは2018年の世界の貿易量について「前年比5.1%増と大きく伸びる見通し」ともしており、とどのつまり足下で強まりつつある各国間の通商摩擦に関わるリスクを低減させる(=ソフトランディングさせる)ことができれば、なおも世界同時の景気回復基調を持続させることは可能であると見ることもできるものと思われます。

その点、このほど中国の習近平国家主席から打ち出された市場開放等に関わる政策方針は大いに評価されるべき「大人の対応」であったと言えるでしょう。周知のとおり、去る4月10日に博鰲(ボアオ)アジアフォーラムで講演した習氏は、国内市場を外資にさらに開放する方針を示すとともに、知的財産保護を強化するために知財侵害の取り締まりを強化するなどの対応に乗り出す考えを示しました。

もちろん、当面は中国がどのような具体的行動に乗り出すかを見定めることも必要でしょう。ただ、このほど中国が米国との通商摩擦を和らげて交渉による解決につなげたいとの姿勢を明らかにしたことは市場にとって大きな安心材料となりました。結果、3月下旬あたりに市場で大いに強まったリスクオフのムードは足下でだいぶ後退しており、そのぶん円の下値余地も拡がってきているものと見られます。

今後、渦中の貿易摩擦問題がソフトランディングに向かうとすれば、なおも世界同時の景気回復基調は持続すると見ます。仮にそうなった場合、市場で最も見直されやすい通貨の一つは豪ドル。実際、豪ドル/円は3月下旬に一時80.50円まで下押すも、そこから大きく切り返して先週4月13日には一時84.08円まで上値を伸ばす場面もありました。

下図に見るように、豪ドル/円は4月上旬に1月下旬以来上値の重しとなっていた21日移動平均線(21日線)を上抜け、足下では一目均衡表の日足「雲」下限を試す動きとなっています。振り返ると、この「雲」が分厚く漂っている場合には強い上値抵抗や下値支持として機能する(図中の紫・楕円点線)ことが多く、逆に「雲」が薄い場合は比較的すんなり上下に抜ける(図中の赤・楕円点線)ことが多くなっています。つまり、豪ドル/円と日足「雲」との位置関係には強い相関が認められるということです。

今回は上方に漂う「雲」が比較的分厚く、相応に強めの上値抵抗として機能する可能性もあると見られます。ちなみに、現在は週足チャート上における一目均衡表の週足「雲」下限も当面の上値抵抗として意識される状況にあり、目下の豪ドル/円は83円台後半から84円処を上抜けることができるかどうかのまさに正念場にあると言えます。それだけに、ひとたび上値の抵抗をブレイクすれば、そこから一気に上値余地が拡がる可能性もあり、今しばらく豪ドル/円の値動きからは目が離せないものと思われます。

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コラム執筆:田嶋 智太郎
経済アナリスト・株式会社アルフィナンツ 代表取締役