先週は、ムニューシン米財務長官や黒田日銀総裁による"不用意"な発言が市場で目立って取り沙汰され、結果的にドル安・円高が一層進行することとなりました。いずれも世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議)での発言だったわけですが、やはり同会合には一種独特の(どこかしら、誰もが胸を張って自慢げに発言したくなるような)雰囲気というものがあるように思われてなりません。
黒田氏に至っては「日本は2%の物価目標にようやく近づいている」などと発言し、これを市場は円買いの"格好の口実"と捉えた模様です。あえて"口実"というのは、黒田氏の発言をして「日銀は今後、金融緩和の縮小に向かう可能性がある」などと本気で考える向きが多かったとは、やはり考えにくいからです。また、先に"不用意"としたのは、その影響でドル安・円高が進むという結果を黒田氏が望んでいたわけはないと思われることと、後に日銀が慌てて火消しに回ったという事実があったからです。
ムニューシン氏の発言については、後に欧州中央銀行(ECB)のドラギ総裁から「国際通貨基金(IMF)加盟国間の合意に反している」と指摘されてしまう始末で、結果的にはトランプ米大統領が「米財務長官の発言は文脈の問題。最終的には強いドルが望ましい」と発言することで火消しに回る格好となりました。
考えてみれば、ECB総裁が米財務長官の発言を公然と批判するというのは、なかなか大胆な行動と言えます。後にIMFのラガルド専務理事もムニューシン氏に発言の意図を説明するように促し、さらに「ドル相場は市場が決めるもの」とくぎを刺したことでとりあえず今回は一件落着ということになるのでしょう。それにしても、一連のやり取りからは結果的にユーロ高が進んでしまったことについて「いかにドラギ総裁がその点を強く嫌気しているか」ということが十分過ぎるほどに伝わってきました。
そのこともあってか、ユーロ/ドルは先週25日に一時1.2537ドルまで上値を伸ばしたところで上げ一服。同日の日足ロウソクは長い上ヒゲを伴うこととなり、以来ユーロ/ドルの上値には一定の重さが感じられる状況となっています。
下図にも見られるように、足下でユーロ/ドルは一目均衡表の月足「雲」上限(現在は1.2424ドルに位置)を一旦上抜ける展開となりましたが、本日(31日)のNY終わり=1月の月足・終値では同水準よりも下方に位置することとなる可能性も大いにあり、さしあたってはその点を確認しておくことが重要と思われます。
また、2008年7月高値と以降の主要な高値を結ぶ超長期レジスタンスラインが当面の上値を押さえる可能性がある点や、2007年8月高値から2017年1月安値まで下げに対する38.2%戻し(1.2517ドル)のレベルに一旦到達し、その後は上げ渋っているという点にも一応は注目しておくことが必要であると思われます。
一方で、そろそろドル自体が下げ渋るかどうかという点にも要注目。目先は、米大統領による一般教書演説の内容、および昨日(30日)から行われている米連邦公開市場委員会(FOMC)の結果を市場がどう捉えるかを見定めて行かねばなりません。今回のFOMCについては「基本的に無風」と見る向きが多いようですが、年が変わって入れ替わった地区連銀総裁らの顔触れが「昨年よりもややタカ派寄り」と見られていることから、そうした色合いが多少なり滲み出るかどうかといった点も興味惹かれるところです。
コラム執筆:田嶋 智太郎
経済アナリスト・株式会社アルフィナンツ 代表取締役