本日(24日)、ドル/円は一時的にも110円割れの水準を買いあさる場面がありました。110円割れは昨年9月半ば以来のことで、このところのドル/円はやけに弱含みで推移する状況が続いています。それはやや不可解な部分もありながら、基本的に「円高」と言うよりも「ドル安」の状況にあるということがわかります。
「ドル安」と言っても、それはドルを取り巻く状況が急激に悪化しているなどというわけでは決してなく、むしろ今は一時的にも「ドル以外の主要な通貨を取り巻く状況が変化する可能性がある」という点に市場が関心を強めている結果ということになるものと見られます。この点については、昨日(23日)付の日本経済新聞にも『市場のテーマがECBを筆頭に米国以外の金融政策の正常化に映っているため』とありました。
昨日、日銀金融政策決定会合が行われて後に黒田総裁の会見が終了するまでは、日本も"米国以外"の一員とされていた模様です。筆者にとってはそのこと自体が非常に不可解でしたが、実際、日銀が1月9日に超長期国債の買入額を若干減額して以来、市場に「出口に向けた地ならしか」などというあらぬ思惑が漂い始めることとなったことは事実です。
周知のとおり、昨日の会見で黒田総裁は市場の思惑を一蹴し、ある意味で"火消し"に努めることとなりました。総裁が異次元緩和の「出口」について『一切の検討もなし』と突っぱねたのは、筆者を含め少なからぬ市場関係者らの想定どおりでした。それでも、市場では思惑が思惑を呼び、ある時点からは「理屈では解しきれない」状況となって行くことも少なくないということを、あらためて勉強させられた思いではあります。
ただ、やはり一応は「理屈」の部分を押さえておくことも大事です。その理屈とは、結論から言うと「今しばらく黒田総裁は出口の『で』の字さえ口に出すことができない」ということであり、筆者は個人的に「果たして、現行の異次元緩和策に出口などというものがあるのか」とある意味で不安視しています。少なくとも、現時点で日銀が出口に向かう姿勢を少しでも見せようものなら、たちまち市場ではドル/円と日経平均株価が急落するでしょう。だから、今は恐ろしくて、恐ろしくて、とても出口戦略など口にできないのです。
そもそも、今年は「4年に1度の統一地方選と3年に1度の参院選が同じ年に行われる12年に1度の亥年(2019年)」の前の年です。まして、来年は10月に消費税の税率再引き上げも予定されています。よって当然、政府与党は選挙戦に有利な状況を醸し出したいでしょうし、間違っても消費税率の再引き上げ時期をまたも先延ばしするなどということは断じてできないということになります。つまり、政府は今年、来年を通じて基本的に景気刺激的な政策の運営に努めるでしょうし、それは日銀にとっても同じことなのです。
そういった「理屈」を一応踏まえれば、やはり今後の円の上値には自ずと限界があると考えていいということになるでしょう。むしろ、気になるのはドルの下値余地ですが、これも自ずと限界があるはずです。目下は、明日(25日)のECB理事会を控え基本的には様子見からややユーロ買いの方になびきやすいムードとなっていますが、ECB理事会の結果とドラギ総裁の会見内容次第ではユーロ強気の流れが急反転する可能性もあるものと十分警戒しておく必要があると筆者は考えます。
もちろん、いま足下で「米国経済の成長が急激に加速し始めようとしている」という根本的な部分にもしっかり目を向けておくことは非常に重要であると思われます。
コラム執筆:田嶋 智太郎
経済アナリスト・株式会社アルフィナンツ 代表取締役