人間は自分の信じたいことを信じたがる。(ユリウス・カエサル)
昨年9月22日付のブログ Dance With Market 「FOMCを終えて - 円高だけがおかしい」で書いた状況の再現である。株も債券もリスクオンに傾いているのに為替だけが円高気味で動かない。
米国株式市場は活況に沸いている。ダウ平均が3日続けて過去最高値を更新し、ナスダック総合とS&P500種株価指数もそろって最高値を付けた。付け加えるなら小型株の指数であるラッセル2000も最高値更新。この株式市場の「4冠」達成を、僕はUSA TODAYの表現を借りて、「SUPERFECTA」と呼んでいるけれど、FT(Financial Times)は「グランドスラム」と表現していた。次期iPhoneへの期待からアップルが終値ベースの最高値を更新したことが話題だ。その一方で小型株指数のラッセル2000も最高値更新。時価総額最大の企業から小型株まで、まんべんなく買われているということだ。
米国株高の背景は言うまでもなく、トランプ大統領の政策期待だ。トランプ大統領は先日'phenomenal' (驚くべき)税制に関する発表を2~3週間のうちにおこなうと発言した。2~3週間と言えば28日に予定されている議会での演説に合わせて発表するつもりなのだろう。その演説は例年、大統領が1月におこなう一般教書演説に相当するものだ。詳細までは詰められないだろうが、トランプ大統領が掲げてきた政策が、米国の議会というオフィシャルな場に初めて提示される。それを先取りする形で米国の株式相場は上昇し、債券は売られ金利が上昇している。動いていないのは為替だけだ。これは昨年9月のブログで述べたのと同様に、今回も為替市場だけが間違っている可能性が高い。前回同様、いずれ修正を迫られるだろう。
日米首脳会談が両国の良好な関係を前面に打ち出して無難に終了したこともあって、週初の日経平均は一時節目となる19500円を上回った。今日は東芝の悪材料と、国家安全保障担当のフリン米大統領補佐官辞任のニュースもあって午後から下げ幅を広げたものの、それでも日経平均はほぼ昨年来高値圏にあるのに対してドル円は昨年12月と今年年初につけたダブルトップ118円台後半から5円も円高水準にある。逆に言えば円安の追い風が無くても日本株は堅調さを保っているということだ。
ドル円と日本株の相関はいまさら説明するまでもないが、最近は為替と株価の乖離が目立つ。局所的な動きは別として、あまり為替に左右されなくなってきた。「為替離れ」とも言える。
背景は上場企業の業績改善である。今週で3月決算企業の4-12月期決算が出そろう。上場企業の今年度業績は2期ぶりに最高益を更新する見通しだ。円高の影響で売上高こそ減収となるが、高付加価値の製品・サービスで採算が改善する。円高という逆風を跳ね返して企業の稼ぐ力が高まっている格好だ。
先週土曜日の日経新聞は、上場企業の売上高純利益率が今期初めて4%を超えそうだ、と報じたが、東証1部上場の全銘柄ベースでは既に14年度から4%台に乗せている。アナリスト予想の平均であるクイックコンセンサスによれば、東証1部上場全銘柄の売上高純利益率は4.5%と過去最高になる見通しだ。
ROE(自己資本利益率)も2期ぶりに8%台に乗りそうだが、14年度に8%を超えたときより売上高純利益率が高まっており、理想的なROEの改善と言える。日本企業のROEは欧米企業に比べれば見劣りするし、8%ではやっと「伊藤レポート」の最低要求水準に達しただけだ。それでも日本企業のROEの低さの問題点である、利益率の低さ=本業の稼ぐ力の弱さがやっと改善に向かう兆しが出てきた。不採算部門から撤退を含む事業再編など合理化を進めた結果が数字に少しずつ表れてきた。
上場企業が為替動向に左右されずに稼ぐ力をつけてきているのだから、株価も為替の影響を受けにくくなるのは当然だろう。
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