今から1年後の2017年12月に日経平均は2万2500円に達すると予想する。強含む場面では2万3000円程度もあり得るだろう。

6年で株価も利益も2.7倍に 2012年末からスタートした「アベノミクス相場」は2017年12月で5年が経過することになる。「アベノミクス相場」が始まる前の日本株式市場は商いも閑散で活気がなく、株価自体も8000円台に低迷していた。日経平均の2012年の安値は6月につけた8300円割れの水準だが、週足では年初の8390円が安値。そこを起点にすると、2017年12月に2万2500円とすれば、6年間で株価は2.7倍になる計算だ。

日経平均が8000円台に低迷していた2012年はアベノミクス始動前の業績のボトム。12年3月期は、東日本大震災やタイ洪水による供給網の寸断に加え歴史的な円高も足を引っ張り、輸出比率の高い企業を中心に業績が悪化した。非製造業は堅調だったが、製造業の不振を補いきれず、上場企業全体では3年ぶりに2桁の減益となった。しかし、そこから企業業績は急回復。「アベノミクス相場」で株価が上がったのは、いくつか要因があるが、いちばんシンプルで納得的な説明は、企業の業績が改善したからだというものである。

さて、その企業業績だが、今期(17年3月期)の最終利益は12.7%増益が見込まれている(東証1部全銘柄ベース)。4-9月期の決算を集計した日経新聞は今期最終7%と報じていたが、アナリスト予想の平均であるQUICKコンセンサスは日経予想を上回る増益を見込んでいる。さらに来期(18年3月期)をみると、来期予想があるものだけの比較だが今期予想対比9.75%増益を見込んでいる。これを当てはめると、18年3月期の上場企業全銘柄の最終利益の合計は、37兆8500億円と、ボトムだった12年3月期の14兆3000億円に比べて2.65倍になる。

ちなみにIFISジャパン集計による最終利益の増益率は今期10.9%、来期11.2%だから、
1.109 × 1.112 = 1.233

QUICKコンセンサスが
1.127 × 1.0975 = 1.236

で、ほぼ同じ結果である。

6年間で利益が2.7倍になるとすれば、株価も6年間で2.7倍になって不思議はない。いや、むしろそうなるべきであろう。年率に直すと約18%の上昇率だ。

日経平均のEPSでバリュエーションを確認しよう。日経新聞に掲載されている昨日時点の予想PER15.69倍で割り返した予想EPSは1165円で、今期はわずか5%増益予想となっている。これが日経予想である。QUICKコンセンサスは今期が1230円(11%増益)、来期が1360円(11%増益)の予想だから、上述した東証1部全銘柄ベースと大差ない。18年3月期の予想EPS1360円をもとにすると22500円はPER16.5倍である。じゅうぶん達成可能な水準と思われる。

来年は円安になる理由 株価が1年後に22500円に上昇するという根拠は、ひとえに業績がその株価にふさわしい水準にまで伸びるという見込みがもとになっている。その蓋然性の鍵を握る要因は、いくつかあるが、もっとも重要なものは為替レートであることに異論はないだろう。僕は来年1年を通じて為替は円安で推移する - それも強烈な円安になる - と考えている。だから先に示した業績予想は保守的過ぎるとさえ思っている。

なぜ円安が進むかと言えば、これもシンプルだが、トランプ次期大統領の掲げる財政政策によって米国の長期金利が上昇するからである。インフレ懸念も台頭しFRBの利上げペースも早まるだろう。

では、なぜ米国の長期金利が上昇するかを見ていこう。長期金利の決まり方を教科書風に書くと以下の通りである。

名目金利 = 実質金利 + 期待インフレ率 + リスクプレミアム

実質金利は実質経済成長率に等しくなると考えることができる。なお、実質経済成長率は事後的にしか把握できないので、インフレ率同様に、「期待」実質経済成長率である。リスクプレミアムに影響を与えると考えられる要因は、いろいろあるが代表的なものは信用リスクである。国債の利回りでいえば財政リスクである。

トランプ次期大統領は、大型減税やインフラ投資など財政拡張策を提唱している。これらが実行されれば米国の景気は刺激され、期待実質経済成長率と期待インフレ率が高まり、米国の長期金利は上昇する。教科書的な説明をするまでもない。財政政策の出動で景気が良くなって金利が上がる、というだけのことだ。

しかし、その財政政策の効果が出なくても、財政を拡大すればリスクプレミアムが上昇して、いわゆる「悪い金利上昇」が起きる。トランプ政策が成功しても失敗しても、どちらに転んでも金利は上がるのだ(誰が書いていたか忘れたが、どこかで同じ趣旨の意見を読んだ)。

トランプ政権の政策 ‐ インフラ投資、大型減税、規制緩和で期待実質経済成長率は1%程度に高まるだろう。失業率が4.6%と2007年8月以来9年ぶりの低水準にあり、ほぼ完全雇用が達成されているような状況で景気刺激策を打てばインフレ懸念すら台頭するだろう。米国の住宅価格はすでにリーマンショック前の水準を超えている。期待インフレ率は2%を超えるだろう。FRBが目標にするコアPCEインフレ率は1.74%と2014年10月以来の水準に上昇しているし、CPI(消費者物価指数)はコアで2.3%である。それに財政リスクプレミアムが0.5%程度上乗せされて、米国長期金利は3.5%、すなわち現在から1%超上昇する余地があるとみている。

米国の財政は拡張策がとられるのか 日本の株価が上がる前提が企業業績の拡大であり、その前提が米国の長期金利上昇を背景にした円安の進行である。そして、長期金利上昇の前提がトランプ政権による財政拡大である。では、その蓋然性とリスクについてみていこう。端的に言えば、トランプ政権=ホワイトハウスは財政拡張策をとれるのか、という点である。

これについては、議会がどう判断するかにかかっている。言うまでもなく、連邦政府の予算を決めるのは大統領ではなく議会である。大統領は予算教書を議会に提出し、予算教書演説で自らの方針を説明、支持を訴えるが、それに議会が従うとは限らない。トランプ氏は共和党の大統領であり、上下両院とも共和党が多数派となった今、予算法案はすんなり通るだろうと思われるかもしれないが、そうではないだろう。そもそもトランプ氏は共和党の政治家ではないし、共和党内でどれだけ支持が得られているかも不明である。

共和党は、伝統的に「小さな政府」指向である。トランプ氏の掲げる財政政策のうち、減税とオバマケアの見直しは、共和党主流派も概ね賛成するかもしれないが、インフラ投資についてはどうか。ここで鍵を握るのは共和党の中心メンバーである下院議長ポール・ライアン氏である。ライアン氏は根っからの財政健全論者であり、下院歳入委員会の委員長も務めた財政と予算編成のプロである。

(蛇足ながら、大統領選直前にトランプ氏の女性セクハラ発言問題を巡って、ライアン氏とトランプ氏の間には遺恨が生じていると思われるが、そうしたことが政策立案に影響するかしないかは不明である)

僕も当初は、すんなりとはいかないだろう、と思っていたが、今は反対に、トランプ氏の掲げる財政政策は議会も承認するだろうと思っている。見方を変えたのは、大統領首席補佐官にラインス・プリーバス共和党全国委員長の起用が決まったからだ。

プリーバス氏は、オバマ政権の大きな政府に対する批判の急先鋒だったティーパーティー(茶会党)に近い保守派に属する。地元が同じウィスコンシン州のライアン下院議長ら党主流派とも良好な関係にあり、また本人も保守派だけに財政に対しては厳しい人物だ。そのプリーバス氏がホワイトハウスの代表として - すなわちトランプ次期大統領の意を汲んで - 議会の代表であるライアン氏と政策を協議することになる。まさしくホワイトハウスも上院下院の議会もすべて共和党、ねじれなし、という体制が活きてくる構図ではないか。つまり、「トランプ氏のホワイトハウスVSライアン氏ら共和党主流派の議会」という直接対立ではないというところがミソだ。これは案外、財政案がすんなりまとまる期待が持てる。

果たしてそうなるかを占うのは、2017年1月から2月頃にかけて予定される大統領就任演説、一般教書、予算教書の中身を議会がどのように評価するかである。議会の態度で、政策の実現可能性が見えてくるだろう。明確な試金石となるのは3月16日の債務上限適用再開であろう。これについてはすぐに引き上げなくてもやり繰りがつくが、デッドラインは9月ごろとされている。オバマ政権でのねじれ時代、ティーパーティーの躍進もあって、債務上限引き上げで合意できず、連邦政府ビルが閉鎖、退役軍人の年金支払いにも支障が出るなど混乱を招いたことは記憶に新しい。米国債がS&PからトリプルAの格付けを初めて失うきっかけになった事件である。

その記憶が残っているうちに、反対に今回はオール共和党が1枚岩となって、さっさと債務上限を引き上げたりすれば、10月からの新年度の予算案もすんなり通る期待が生まれよう。そうなった場合、米国長期金利の上昇に一段と拍車がかかるだろう。

米国の財政拡大、長期金利の上昇、ドル高の進行。これが2017年の相場見通しの大前提だが、異論も存在するようだ。次回のレポートでは、これら前提に盲点がないか、反論を挙げながら、さらなる検討を加えてみたい。