昨日の日本株相場を見て誰もが思ったことだろう。日銀のETF買い期待で右往左往する相場は情けないと。「日銀のETF買いで、市場の価格形成が歪められており、不健全だ」という声も聞かれる。

僕はそうは思わない。市場には様々な思惑を持った投資主体が参入、存在してよい。同じ証券の同じ価格を見て、買うひとがいれば売るひとがいる。だから商いが成立する。「競馬を成り立たせるのは意見の相違」とマーク・トウェインも言っている。

日銀は割高割安の判断をせずに買いを入れる(と考えられる)。ETFを買うのは利益を狙っての投資ではないからである。そして、もしも日銀のETF買いで、日本株が割高な状態にあるならば、絶好の売り場だと思うひとが増えるはずである。日銀のETF買いを期待したのに買いが入らないからという理由で失望売りで相場が下がるケースでは、もしもそれで割安な銘柄が現れるなら買いの好機ではないか。

結局、日銀のETF買いも市場を動かすカタリストのひとつに過ぎない。あるいは「ノイズ」とも言える。相場で利益を稼ぐとは、それらカタリストやノイズをうまく処理するということにほかならない。日銀のETFトレード、おおいに結構である。

為替市場では当局の牽制・介入をまるで催促するような円買いが見られる。ロイターによれば、ある国内銀関係者は「17日に出た米連邦公開市場委員会(FOMC)議事要旨を見て、9月利上げの機運が後退した。ドルに原因があり、日本の政策当局が口先でけん制しても効果はほとんどない」という。

政策当局の口先介入が効果がないのは言わずもがなであるが、FOMC議事要旨を見て9月利上げの機運が後退したドルに原因があるかどうかも怪しい。そもそも9月利上げの可能性などあまり取沙汰されていない、一方で12月利上げの可能性はBREXIT前の水準まで戻っており、50:50と市場は見ている。

12月利上げ確率が50%でもドルが売られる。つまり、現在の為替市場の動きは米国利上げ観測云々とは関係ない。では、なにか。ただの投機である。もっと言えば、「8月の円高(米国債の利払い、9月決算の国内輸出企業の円転等の季節性)」を背景とした円買いだろう。お盆休みで薄商いというのも投機を仕掛けるには好都合だ。

ドルは対円だけでなく、他の主要通貨に対しても下落していると前出の記事はいうが、円独歩高である。ドル・インデックス(DXY)は94.0ポイントを切っておらず、右肩上がりのレンジの下限を試しているだけだ。

繰り返すが、現在のドル円相場は米国利上げの思惑とは関係ない相場形成になっている。ということは、次に市場がそれ(米国利上げ)を真剣にとらえ始めるときには、大きな反動があると思う。その辺りのことを株式市場も感じ取っているのだろう。だから底堅い。日銀のETF買いだけで買い支えられているわけではないだろう。

【お知らせ】「メールマガジン新潮流」(ご登録は無料です。)

チーフ・ストラテジスト広木 隆の<今週の相場展望>とコラム「新潮流」とチーフ・アナリスト大槻 奈那が金融市場でのさまざまな出来事を女性目線で発信する「アナリスト夜話」などを毎週原則月曜日に配信します。メールマガジンのご登録はこちらから