6月6日付レポートのタイトルは「『ギャンブルのすすめ』では決してない理由」だった。その文脈から言えば、本日のこのレポートは「ギャンブルのすすめ」である。

英国の国民投票は、いまだに残留・離脱どちらに転ぶかわからない。ブルームバーグ・ニュースのヘッドラインをみると、「英最新世論調査:EU残留と離脱が拮抗-ソロス氏はポンド急落を警告」、「英EU残留でも1ドル100円突破へ、離脱なら『大惨事』-榊原氏」などの見出しが躍っている。

この期に及んで、「もしも英国がEU離脱したら株は下げ、残留と決まれば買い戻される」なんてことを言ってもなんの役にも立たない。問題は、どのような行動をとるべきかということだ。

ギャンブルの定義を、「期待値がマイナスなものに賭けること」としてきた。世論調査の結果も当てにはならない。そうなると、そもそも確率を合理的に見積もることができないのだから、「期待値」をはじきようがない。サイコロの丁半博打やコイントスなら(いかさまがなければ)確率は5分5分なのでまだ賭けようがあるが、Brexit のYes/No に賭けるのは丁半博打より難しい。

それでも賭けようがないわけではない。「賭ける」というのは一種の意思決定であり、われわれは意思決定をするときに理論的・客観的な根拠を必要とする - と思い込みがちである。しかし、意思決定の理論は、未来の出来事に確率を割り振るとき客観的な根拠を要求してはいない。当たり前だが、確率が主観的でも意思決定はできる。フランク・ナイトの定義する「不確実性」と「リスク」の話だ。

ナイトの言う「リスク」とは確率計算である程度予想できるものであり、それに対してまったく予想もつかないものを「不確実性」とナイトは定義した。世の中一般的には「不確実性」を忌み嫌う傾向があるが、賭け、あるいはギャンブルとは、この「不確実性」というほうのリスクを厭わずとるという行為に他ならない。

なんでも賭けの対象にするロンドンのブックメーカーのオッズ(賭け率)から算出したEU残留確率は、ウィリアム・ヒルが83%、ベットフェアが78%と約8割の水準にまで上昇した。英ポンドは急上昇し、国民投票の日程が決まった2月以来の高値をつけた。呆れるほど弱い日経平均でさえ、3連騰で700円超も戻した。市場は明らかに残留に賭けているようだ。

この流れに乗る、という手がある。特定の誰かの予想を信じるのではなく、ある種の「集合知」である市場を信じて乗ってみる。それでも慎重を期していっぺんに張るのではなく、少しずつ賭け金(ポジション)を積み増していく。

英国の国民投票は23日の現地時間朝7時から夜の10時までで、投票締め切り直後から開票が始まる。これは日本時間24日朝6時。日本は主要市場のなかでいちばん最初に国民投票の結果に対してリアクションを迫られる市場になる。

結果は寄り付き前から出始める。英選挙管理委員会の予想では日本時間9時前に結果が明らかになる地域は4選挙区。そのうちのひとつに City of London というど真ん中の地域が含まれる。これが相当程度、参考になるだろう。その後、時間を追うごとに開票が進み、昼までには過半数の地域の結果が判明する。おそらく勝負はそのころまでに決しているのではないかと思う。

そこで「残留」に賭けるトレーディング・アイデアだが、例えば日本株で勝負したい場合、流動性のある先物やETFなどを前日に少しだけ買っておく。そして24日朝いちばんの開票結果で「残留」優勢ならばポジションをさらに積み増す。逆の結果なら投げる。売りで勝負するのは危険なのでお勧めしない。そうなったら様子見に徹しよう。

目論見通り、残留票が増えてくれば、ポジションを増やしていけばいい。どこかのタイミングで - おそらく11時ごろだと思う - 大規模な買戻しが入ってくるはずだ。それまでにどれだけポジションを積めるかが勝負である。

久しぶりのトレーディング・チャンスだ。腕が鳴る。

言わずもがなだが、投資は自己責任で。うまくいかなくても、苦情はお断り。だって、僕を信じろ、とは一言も言っていない。僕が提案したのは、「市場を信じて流れに乗ってみたら」ということだ。外れて文句を言いたいならば、「市場」にどうぞ。

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