年初からの波乱相場に幕

前回のレポートで、「酷い相場だった」と過去形で書いたら、多くの読者から「まだ終わってないのでは?」との質問を受けた。今回の下げ相場で底なしのような恐怖を味わった方もいただろう、そう簡単に疑心暗鬼は晴れないに違いない。だが、もう終わったのだ。昨年の夏から半年に及んだ市場の混乱は収束した。

先週末、NYダウ平均は6日続伸、週間ベースでは5週連続上昇で終えた。株価は年初来プラス圏に浮上した。年初からのこの相場変調を、僕はずっと「二番煎じ」だと言ってきた。まったく同じ材料で同じように下げている。同じことの繰り返し、それが「二番煎じ」だと指摘した。

だから、二回目は怖くない。さきほど、「底なしのような恐怖を味わった方もいただろう」と述べたが、実は市場参加者の心理は「恐怖」というものとはかなりかけ離れたものだった(ただし、いやな相場だとは思っていただろうが)。「米国景気はリセッション入りする」「リーマン危機の再来かもしれない」などとさんざん騒がれたわりには、「恐怖指数」と呼ばれるVIX指数は昨年夏のチャイナショック時に急騰した水準の半分までしか上がらなかった。そして先週末には15を割ってチャイナショック発生以降で最低水準に低下した(グラフ1)。危機モードを完全に脱したと言っていいだろう。

象徴的なのはこのNYダウ平均のチャートである。Wボトムをつけて急落前の水準をほぼ取り戻した。昨年夏のチャイナショック時における急落・反騰とまさに同じ絵だ。このチャートを見ると、くっきりとシンメトリー(対称)になっているのがわかるだろう(グラフ2)。典型的なミラー(鏡)チャートだ。昨年夏のチャイナショック、そして今回の年末年初からの急落と2回ともWボトムをつけて切り返したが、俯瞰してみれば昨年夏と今回の2回の急落・反騰が大きなWボトム形成になっている。半年かけて相当なリスクシナリオを消化し織り込んだということであろう。

「悪材料の後退」という買い材料

中国景気減速に原油安、米国の景気後退懸念に欧州銀行の信用不安...年初から直近まで株式相場が下落する材料には事欠かなかった。ここにきて相場の戻りが顕著になったのは、なにか特別な好材料が出たわけではない。ただ、単純に相場の重石だった悪材料に対する耐性がつき始めたことが株式市場が底堅くなってきた背景であろう。時間が解決したと言えばそれまでだ。例えば中国景気は依然として減速している。これは構造問題であり成長率鈍化は趨勢として避けらない。それでも財政出動への期待や人民元安定化を評価する声も聞かれ始めた。では、それはG20や全人代や中国政府の努力の成果か?と言えばそうではないだろう。ファンダメンタルズに大きな変化はなくても捉え方が変わってきた - それを所与のもの、常態として受け止めだした。中国経済に対してはそうやって付き合っていくほかはないのだから、これは良い兆しである。

そういう受け止め方の変化というのもあれば、実際に目に見える改善もある。原油や一部の金属など資源価格は底打ちから反転上昇に転じた格好が明確である。18日のNY原油先物は一時41.20ドルと、期近としては2015年12月4日以来およそ3カ月半ぶりの高値を付けた。一時は景気後退入りかと心配された米国経済についても最近発表された経済指標は押し並べて良好であり、景気後退まで懸念したのは明らかに行き過ぎであった。これらは誰の目にも明らかな悪材料の後退である。

悪材料山積で下げた相場だから、それらの悪材料が後退すればそれを好感して上昇するのが道理である。但し、「悪材料の後退」という材料で買うのは買い戻しが主体。上値を買うには新たな買い材料が必要だ。日本株で言えば政府の財政政策、例えば大規模な景気刺激パッケージと消費増税凍結の期待が高まることなどだろう。

本田内閣官房参与は日本テレビ系列の番組「ウェークアップ!ぷらす」に出演し、安倍首相が来年4月の消費税率10%への引き上げを見送るかどうかについては「最終的には伊勢志摩サミットでどういう首脳宣言が出せるかなどをみて(安倍首相が)総合的に判断する」と述べた。今後、こうした要人発言が増えてくるとともに、サミット前後で政策発動期待が高まり、相場の支えになるだろう。

円高も目先ピークアウトか

「時間が解決した」と述べたが、それには半年かかった。この間、米国の利上げ開始(12月)と、連続利上げ見送り(3月)を確認する必要があったということである。そのプロセスが必要で、その間の市場の変調はいわば「通過儀礼」のようなものだったのだろう。ここまで見て、ようやく米国の利上げペースは相当緩慢と確認できた。これが不透明要因の後退につながり、これまでの悪材料=オセロの黒い駒が、次々と改善=白い駒に変わり始めた。米国の利上げペースは緩慢であるとの確信がドル独歩高を是正し、原油価格を反転させ、新興国からの資金流出懸念を後退させた。

さて、そうしたなかにあって日本株だけは置いてけぼりである。無論、ドル高是正が円高となって表れているからだ。しかし、この円高の理由がよくわからない。米国の利上げ見通しの下方修正(年4回⇒2回)によって米国金利の先高観が後退したことがドル安円高の要因であると言われているが、為替関係者が好んで使う日米金利差はむしろ拡大傾向にある(グラフ3)。無論、日本のマイナス金利の影響である。

これまで円高となると決まって言われた「リスク回避で安全通貨の円が買われる」というのも当てはまらない。現在は「リスク回避モード」が和らいでいるのだから。

唯一、まともに思える理由は、米国のインフレ期待が徐々に高まっていることだろう。インフレとは通貨価値が減価することだ。米国でインフレ期待が高まる一方、日本はマイナス金利が足元では逆効果を生んで却ってデフレ的な側面が強くなっている。この日米のインフレ期待の差が円高ドル安の背景ではないか。そこに年度末という季節要因、リパトリ(リパトリエーション:外貨建て債券等に投資していた日本の機関投資家による本国送金)が絡んでいるのだろう。

そうであれば円高のピークもそろそろであろう。マイナス金利政策はいまのところ効果を発揮せずデフレに逆戻りさせているようだが、基本的にはおカネの価値を下げる方向に作用する。4月接近とともに日銀の追加緩和期待も高まり円高に歯止めがかかるだろう。

年度替わりの波乱に注意

日経平均は三連休前まで4日続落となった。但し、今月の初めに25日移動平均を上回って以降、下値は1万6000円台後半で比較的底堅く推移している。25日移動平均も上向きになっているので、サポートラインとして意識されるだろう(グラフ4)。下げても25日線のある1万6000円台半ばまでだと思う。三連休明けの今日から権利付き最終日までちょうど5営業日。2000年以降の16年間で、権利付き最終日までの5日間のパフォーマンスをみると、13勝3敗、下げたのはわずかに3回で非常に堅調である(グラフ5)。配当権利取りの買いや期末のドレッシング(お化粧買い)期待などを背景とする年度末特有の動きだ。

反対に年度替わりは冴えない。配当落ちがあるので下がって当然なのだが、配当落ち分以上に下がるケースがある。配当取りで買われた反動が出るのだ。去年も3月中旬から非常に強く推移してきたが、去年は権利付き最終日からすでに大きく下げに転じ年度内最後の4日間で500円も下げた(グラフ6)。

今年はマイナス金利の影響で利回りのあるものがなくなるなか、例年以上に配当が注目されているので、権利付き最終日前後の値動きが荒くなりやすい。配当は欲しい、しかし株価変動リスクは避けたいという投資家は権利だけ確定させたらヘッジに動くだろう。先物やオプション主導で下に振らされる展開に留意したい。