今週に入ってからのドル/円は、一時的にも114円台に乗せる場面が幾度か垣間見られています。ドル強気の要因として大きいのは、一つに米上院で2018会計年度の予算案が可決され、米トランプ政権が意図する米税制改革の実現に対する期待が高まっていることです。仮に米税制改革が実現すれば、米企業業績にも好影響が及ぶことから、やや先回り的に米株が買われて主要3指数が軒並み過去最高値を更新していることもドルの強気につながっています。
加えて、米大統領が「(発表は)極めて近い」と語った(23日)次期FRB議長の人選に関わる市場の思惑も、ときにドル買いの重要な要素の一つとされることがあります。周知のとおり、昨日(24日)もNY時間の後半に「米共和党内ではテイラー氏が有力」との報があったことで、一旦下押していたドルが急速に買い直されるという場面がありました。今のところ、市場では「テイラー氏はタカ派」と見られている模様です。
もちろん、22日に行われた本邦の衆院選において政府与党が大勝したこともあり、日本株が連日の上昇となって市場全体にリスクオンのムードをもたらしていることで、やや円安方向に傾きやすくなっているという点も見逃せません。昨日で16日続伸となった日経平均株価はドル建てでも強気の展開を続けており、結果として海外投資家の資金の回転が効いていることも巡り巡ってドルの強気に結びついているものと思われます。
とまれ、このところのドル高・円安の流れにより、いつも本欄で欠かさずチェックしているドル/円の月足チャート上において、今まさに「強気シグナルが灯る可能性が高まってきている」ということに今回はとくに注目したいと思います。
下図に見るように、足下でドル/円の月足ロウソクは31カ月移動平均線(31カ月線)を上抜けるかどうかの瀬戸際にあります。振り返れば、今年1月の月足ロウソクが終値で31カ月線を下抜けて以来、これまでずっと31カ月線は一つの上値抵抗として意識される存在でした。この31カ月線は、現在113.64円に位置しており、執筆時の水準はそれを上回っています。もちろん、最大の注目は「この10月末時点(=月足・終値)で31カ月線を上抜ける格好となるかどうか」です。
あらためて言うと、ドル/円の31カ月線や62カ月移動平均線(62カ月線)は、これまで長らく重要な場面、場面で下値を支えたり、上値を押さえたりしてきました。例えば、昨年のブレグジット・ショックのときも米大統領選のときも、62カ月線はドル/円の下値をガッチリと支えました。それだけ投資家に強く意識される存在なのであり、両線が発する強気・弱気のシグナルは信頼度が高いと言えます。
仮に、今後ドル円が31カ月線をクリアに上抜けると、そこからの上値余地は広がりやすくなると見られます。すぐ上方には一目均衡表の月足「雲」上限が控えており、これが一旦は上値をレジストする可能性もありますが、同水準をも上抜ける展開となれば、あらためて昨年12月高値が位置する118円台も視野に入ってくることとなるでしょう。
ちなみに、来年1月頃になると月足の「遅行線」が26カ月前の月足ロウソクが位置するところを下から上に抜ける格好となる可能性が高いと見られ、これも一つの重要な強気シグナルとなり得ます。少し長い目で注目しておきたいところです。
コラム執筆:田嶋 智太郎
経済アナリスト・株式会社アルフィナンツ 代表取締役