周知のとおり、昨日(10日)は朝鮮労働党創建72周年の記念日にあたり、市場では以前から同日に北朝鮮が何らかの挑発行動をとるのではないかという憶測が飛び交っていました。結局、特段の動きは見られず、とりあえず事なきを得たわけですが、考えてみれば昨日のような「記念日」に行動を起こすよりも、むしろ来週18日の「中国共産党大会開幕のとき」や11月初旬に予定されている「米トランプ大統領の訪日&アジア歴訪のとき」などの方が、よりインパクトが強いと見ることもできます。よって、なおも当分は北朝鮮リスクに対する警戒を解くことはできません。

もちろん、他にも市場にとっての懸案事項は数ありますので、ここで少し整理しておくことにしましょう。まず、一つには来週16日にワシントンで2回目の「日米経済対話」が開かれます。この会合に向けて米国財務省が発表する半期に一度の「為替報告書」において日米貿易不均衡是正への言及があらためてなされるとともに、一段のドル高・円安に対するあからさまなけん制ムードが醸成されやしないか、市場としては気になるところです。

もっとも、今回の経済対話は「日本が発動した米国産牛肉の緊急輸入制限(セーフガード)の運用面での見直し」が議論の目玉となる見通しですし、実のところ米大統領は、メディアや一部の市場関係者がやや大げさに取り沙汰するほど強くドル安・円高を志向しているわけではありません。それどころか、米大統領が最も重要視している世界覇権の復活・強化のためには「強いドル」が不可欠であるということも再認識しておく必要があると思われますし、実は米大統領もその点は十分理解しているものと思われます。

一方、昨日(10日)は米共和党の重鎮であるコーカー上院議員が米大統領との対立姿勢を露わにしていることが取り沙汰され、このところ市場で期待が膨らんでいた米税制改革に暗雲との見方が広がってきていることも大いに気になるところではあります。周知のとおり、先週5日に米下院は2018年度会計予算の大枠となる予算決議案を賛成多数で可決しており、今月「中旬」にも上院で採決される予定の予算決議案が通過すれば、税制改革法案を与党・共和党が単独で可決することも可能になるとされています。よって、上院共和党内から造反の声が上がるかどうかは極めて神経質な問題となります。

もちろん、なおも米予算決議案が上院を通過し、米税制改革法案が米上院で可決する可能性も十分に残されているわけであり、その結果によって一時的にもドルが大きく上下に振れる可能性があるということは今から心得ておきたいところです。

また、今月15日に実施されるオーストリア下院選挙の行方も市場に大きな影響を及ぼす可能性があります。これまでオーストリアでは中道左派の社民党と中道右派の国民党が大連立を組んできましたが、選挙後の連立継続には両党とも否定的です。今回の選挙で第1党となる可能性が高いのは国民党であり、同党は第2党の座を社民党と激しく争う自由党という極右政党と連立を組む可能性が高いとされます。つまり、とうとう極右政党がオーストリアの政権を握ることになるというのです。

前回更新分の本欄でも触れたように、9月に行われたドイツの連邦議会(下院)選挙では極右政党が初議席を獲得して第3党に躍進しました。また、今月20-21日にチェコで行われる下院選挙では、新興のポピュリズム政党が第1党となる勢いであると言われています。このように、目下の欧州では急激に右傾化の流れが強まっており、行く行くは「反EU」の流れにつながりユーロの立場を危うくしやしないか、注目しておかねばなりません。

コラム執筆:田嶋 智太郎
経済アナリスト・株式会社アルフィナンツ 代表取締役