前回更新分の本欄では、先週3日に行われたイエレンFRB議長の講演について「事前に期待が盛り上がり過ぎると、一旦は失望の反応が見られる可能性もある」と述べました。そして実際、イエレン氏の講演と質疑応答の時間を境にドルは一旦売られる展開となり、一時114.74円まで上値を伸ばしていたドル/円も後に114円を割り込む展開となりました。
もはや、市場は来週14-15日の米連邦公開市場委員会(FOMC)において追加利上げの決定が下されることを"ほぼ確実"と見ている模様であり、すでに関心は「その次」に移りつつあるようです。周知のとおり、その次というのは一つに先送りされてきた予算教書の提出、つまりは米大統領が言う「歴史的な」税制改革案を含めた積極的な財政出動の大まかなスケールや内容であり、また15日を期限とする米債務上限引き上げ協議の行方、そしてFOMCメンバーらによる今後の金利見通しなどであろうと考えられます。
とにもかくにも、まずは米議会に債務上限の引き上げを認めさせ、予算教書を議会に提出しないかぎり、大規模インフラ投資や大型減税を含む米政権の経済政策案は前へ進められません。また、ここにきてFOMCメンバーらの政策方針は「想定していたよりもタカ派的」と見られているようですが、実際には彼らの金利見通しを確認してみないと、その程度がつかめません。逆に言えば、今後それらが一つ一つクリアにされ、先々の見通しが少しずつでも明らかになってくれば、外国為替相場にも一種の"アク抜け感"が出てくるのではないかと思われます。
いずれにしても、足下では米政権の経済政策や米景気拡大に対する期待がなおも引き継がれており、基本的にドルの下値が堅くなっていることも事実です。下図でも確認できる通り、このところ長らくドル/円は一目均衡表の週足「雲」上限の水準に下値をサポートされる格好となっており、言うなれば「昨年11月の米大統領選後の急激な上昇に対する調整の局面」にあると見られます。
この調整を続けるなかで、今年1月半ば以降のドル/円は115円手前の水準をネックラインとするヘッド・アンド・ショルダーズ・ボトム(逆三尊)を形成していると見ることもできると考えられ、目下のところ上値抵抗となっているネックラインの水準をいずれ上抜けてくれば、調整局面は終了したとの感触も得られてくるものと思われます。
同時に注目しておきたいのは、以前からジワジワと水準を切り上げてきている31週移動平均線(31週線)が、じきに62週移動平均線(62週線)を下から上に突き抜ける格好になるという点です。振り返れば、昨年2月半ば頃に31週線が下向きの62週線を上から下に突き抜けるデッドクロスが示現してから、ドル/円の下落は一段と加速しました。
いまだ62週線は下向きの状態にあるため、単に31週線がそれを上抜けるだけでは確度の高いゴールデンクロスとは言えません。とはいえ、いずれ62週線も上向きになってくると、そこから本格的に上値余地が拡がり始める可能性はあると思われます。また、今後は週足の遅行線が週足「雲」を上抜けるかどうかという点にも要注目です。
前述したように足下で逆三尊を形成している可能性がある点や、31週線と62週線のゴールデンクロス示現、週足の遅行線の動きなどを見て総合的に判断するに、そろそろドル/円の調整も終盤に差し掛かってきていると見ることもできるように思われます。
コラム執筆:田嶋 智太郎
経済アナリスト・株式会社アルフィナンツ 代表取締役