昨日(20日)、日銀金融政策決定会合の結果と黒田総裁会見の内容が明らかとなり、これで年内の注目イベントをすべて通過しました。振り返れば、12月に行われた欧州中央銀行(ECB)、米連邦準備理事会(FRB)、日本銀行(日銀)による政策会合の結果は、いずれもドル強気の流れを一層強く支援するものとなりました。
結局、ECBは当面の資産購入総額を拡大させることを決定し、月間購入額の減額についてはドラギ総裁が「テーパリングではなく現行プログラムの延長と捉えるべき」と、量的緩和の継続を強調しました。また、日銀も政策の現状維持を決定したうえで、現行の「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」のすべてにおいて、今のところ見直す考えはないと発言しました。
一方で、FRBは事前に確実視されていた利上げを決定したうえ、米連邦公開市場委員会(FOMC)参加メンバーらの来年の金利見通しの中心は上方に修正されることとなりました。言うまでもなく、ユーロ圏と日本に対する米国の政策の方向性は明らかに異なるものとなり、そこにくっきりと浮かび上がるコントラストは、対ユーロ・円におけるドル強気の見方に作用しやすいものとなっています。
来年1月下旬にトランプ新政権が発足した後、選挙戦のなかで掲げられた公約がどの程度まで実現できるかは確かに未知数です。とはいえ、もともと足下では米国経済の成長が加速し始めるための素地が時間の経過とともに整ってきていたわけであり、掲げられた公約の一部でも実現する運びとなれば、それは米国経済の成長を大いに刺激するものになると思われます。
とくに注目すべきは、やはり米雇用情勢の劇的な改善ぶりであり、それは人々の賃上げ期待の高まりを経て、いずれ消費、生産(製造)の活性化につながるものと見られます。その点を再確認するために、過去に本欄で幾度も取り上げていますが、ここであらためて「米求人労働異動調査(JOLTS)」の推移を確認しておきましょう。
下図は、12月7日に発表された10月分までの米国の「求人」、「採用」と「自発的離職」の推移をグラフ化したものです。まず、求人の伸びが依然として高止まりの状態にある一方で、なおも採用件数との間には開きがあります。これは「職を求める側の雇用条件(賃金や採用形態、処遇など)に対する要求水準が上がっている」ということを示すものと考えられます。つまり、これは人々が"より良い仕事に就きたい"と考えていることを示しており、自ずと賃上げ期待も高まりやくなっているものと思われます。
そして何より注目されるのは、ここにきて自発的離職者の数が概ね300万件程度で高止まりしているということです。これは、平たく言うと「こんな仕事など誰がやるものか」と覚悟を決めて、離職に踏み切る人が少なくないということで、これは米雇用市場が"売り手市場"の状態にあることを如実に物語るものと考えられます。新たな職に就くことが容易くないと思われる状況なら、こうも離職者が増えることはありません。
このように、足下でドル強気の流れが続いているのは、必ずしもトランプ次期大統領の経済改革に対する期待だけが原因ではないということを再確認しておきたいものです。
コラム執筆:田嶋 智太郎
経済アナリスト・株式会社アルフィナンツ 代表取締役