前回更新分の本欄で、筆者はユーロ/ドルについて「行く行くは大節である1.1000ドルや7月25日安値が位置する1.0950ドル前後の水準を試す可能性もあり得るものと、一応は心積もりしておくことも必要」と述べました。そして実際、ユーロ/ドルは先週14日に終値で1.1000ドルを下抜け、週明け17日には一時1.0964ドルまで下落する場面がありました。結果、7月25日の安値にほぼ顔合わせしたこととなります。

複数の重要な節目を試し、すでに当面の下値の目安に到達したことから、さすがに足下では一旦下げ渋る動きを見せ、昨日は一時1.1026ドルまで値を戻す場面も見られました。周知のとおり、明日(20日)はECB理事会が控えており、事前にユーロ売りポジションを一旦解消しておこうとする動きも出たものと思われます。

ECB理事会は、今週の様々な予定のなかで最も注目度の高いイベントと言えます。市場の一部では「量的緩和(QE)の規模を縮小する方針が匂わされる」との見方もあるようですが、現時点においてそれは時期尚早であると言えるものと思われます。とはいえ、追加緩和実施の決定を下すためのハードルも相当に高いと見られ、結局は現行の政策が据え置かれる可能性が高いと見る向きが少なくないことも事実です。

もともと、このところのユーロ/ドルの下げは追加緩和期待を背景としたものではなく、前回の本欄でも述べたように、いわゆる「ハード・ブレグジット」に対する警戒の高まりに伴うユーロ売りと、米国の年内利上げ観測の盛り上がりに伴うドル買いがダブルで作用した結果であると考えられます。その意味では、仮に今回のECB理事会で政策据え置きの決定が下されても、それでユーロが一気に買い戻されるとは少々考えにくいところです。

ただ、ここにきてドル買いの流れが一服してきていることもまた事実です。シカゴ通貨先物取引市場における大口投機家の円買い越しが、すでに相当巻き戻されていることも一因と思われるうえ、やはり米大統領選の日程が徐々に近づいてきていることで、いたずらにドル買いを積極化することも難しいといった事情があるのでしょう。

10月15日付の日本経済新聞朝刊(マーケット総合面)に「トランプリスクがNY金先物価格を下支えする可能性がある」といった旨の記事が掲載されていましたが、それは同時に「トランプリスクがドルの上値をある程度押さえる可能性がある」ということでもあるものと思われます。その意味でも、明日(20日)行われる米大統領選の第3回TV討論会の行方は大いに興味惹かれるところと言えるでしょう。

なお、ドルの上値が押さえられがちとなっている目下の状況にあって、豪ドルがやや強気の展開となってきていることは一つ注目に値します。昨日(18日)公開された豪準備銀行(RBA)議事録には「資源輸出の拡大により、経済成長率は強くなっている」、「経済成長が賃金の伸びとインフレの緩やかな上昇をサポートする」などの指摘がなされており、市場では今後の利下げ観測が大きく後退しています。

下図に見るように、豪ドル/円は2014年11月に102.84の高値をつけて以来、長らく下降チャネル内での推移を続けてきました。足下では、やや上向きになり始めた89日移動平均線(89日線)を21日移動平均線(21日線)が下から上に突き抜けるゴールデンクロスが示現しているうえ、ミニ・ダブルボトムの完成も確認されます。今後、チャネル上限を上抜けて上放れの展開が見られるかどうか、注目しておきたいところです。

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コラム執筆:田嶋 智太郎
経済アナリスト・株式会社アルフィナンツ 代表取締役