9月27日から昨日(10月4日)まで、ドル/円は6営業日連続で上昇し、足下では103円近くまでの戻りを見せる展開となっています。その要因は複合的なものですが、まずは米大統領選の第1回TV討論会でクリントン候補が優勢であったと評価されたことや石油輸出国機構(OPEC)の非公式会合で原油生産制限が合意に達したことなどが一因であったと考えることができるものと思われます。

また、9月30日に発表された8月の米PCEコア・デフレーターや9月のシカゴ購買部協会景気指数、同ミシガン大学消費者信頼感指数などが強めの結果であったことに加え、10月3日に発表された9月の米ISM製造業景況指数が51.5と、事前の市場予想(50.3)や前回の49.4から大きく上振れしたこともドル買いの流れを支援することとなりました。

さらに、クリーブランド連銀のメスター総裁が、11月のFOMCについて「米大統領選に近い日程ではあるものの『ライブ』の会合と見るべきだ」といった見解を示したことや、リッチモンド連銀のラッカー総裁から「現在の政策金利は極端に低い」、「投票権を有していれば9月似利上げを主張していた」などといった発言が飛び出したことも、足下で見られているドル強気の流れを演出することとなりました。

その結果、目下のドル/円は「年初からずっと上値を押さえる役割を果たしてきた複数の節目を順に上抜けるかどうか」、すなわち「長らく形成してきた大底圏から脱出して一気に上値余地を拡げるかどうか」の正念場を迎えていると言うことができるものと思われます。そこで、以下にテクニカル上の重点ポイントをあらためて列記し、本日(5日)発表される9月のADP全国雇用者数や9月のISM非製造業景況指数、そして週末発表される9月の米雇用統計の結果などと絡めて、大いに注目しておきたいと思います。

昨日(4日)、ドル/円は21日線をクリアに上抜け、次いで一目均衡表の日足「雲」下限をも上抜ける展開となりました。日足「雲」下限を上抜けるのは5月以来のこととなります。また、昨日は5月30日高値や7月21日高値、9月2日高値を結ぶレジスタンスラインも上抜けています。同ラインは100円前後の水準を下辺とする三角保ち合い(トライアングル)の上辺と考えることもでき、長らくの保ち合いからの上放れとなる兆候が見て取れるようになってきました。

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ただし、昨日の上値は89日線に押さえられる格好となっており、さらに上方には日足「雲」上限も控えています。振り返れば年初来、ドル/円が日足の終値で89日線と日足「雲」上限の両方を上抜けたことは一度もありません。それだけに、ここで両方の重要な節目を上抜けることとなれば、チャート・フェイスから受ける印象は大きく変わります。

補足になりますが、思えば日足の「遅行線」も年初来、日々線をクリアに上抜けたことはありませんでした。現在は日々線と絡み合いながら上昇する格好となっており、今後は日々線をクリアに上抜けるかどうか、さらには遅行線が日足「雲」を上抜けるような展開となって行くか、などといった点が大いに注目されるところです。

なお、現在89日線は103円の手前あたり、日足「雲」上限は103.23円の水準に位置しています。仮に、これらの水準を上抜ける展開になってくれば、そこからドル/円の上方視界は大きく開けてくることになるものと思われます。

コラム執筆:田嶋 智太郎
経済アナリスト・株式会社アルフィナンツ 代表取締役