ちょうど一週間前に9月の日銀金融政策決定会合、米連邦公開市場委員会(FOMC)という2大イベントを通過しましたが、その後の相場からは当面の方向感が非常に見出しにくくなっています。どうやら、市場は其々の結果や日銀総裁ならびにFRB議長の会見内容など、諸々の要素を相場の材料として完全に消化し切れずにいるものと思われます。

市場関係者の多くが指摘するように、今回の日銀会合の結果は政策の手詰まり感をより一層明らかにしたと言っていいでしょう。とはいえ、これまで多くの論客が「金融政策の景気刺激効果には自ずと限界がある」と指摘してきたわけであり、今さらその点を取り沙汰して騒ぎ立てるのも虚しいことではないかと思われます。

仮に日銀が今以上の緩和拡大方向に走れないとしても、直ちに引き締め方向に向かうというわけでもないでしょう。とどのつまり、当面は"現状維持"が続くものと考えることができ、その意味では「追加緩和の可能性の有無」といった不確定要素が一つ消えようとしているとも言えます。結果、今後はシンプルに「米国経済の先行きをどう見るかといった点に市場は集中すればいい」ということにもなるのではないでしょうか。

今回のFOMC後の会見において、イエレンFRB議長は「近い将来の経済見通しに関するリスクは概ね均衡している」と述べました。これは、今年の年初からたびたび相場の波乱要因となってきた中国経済の先行き不透明感や英国の欧州連合(EU)離脱の影響などといったリスクが、足下で一頃より低下しているということを示しています。なお、この発言は金融引き締めを視野に入れた際の定型表現として用いられるものとされています。

他にも、イエレン氏の口からは「(今回の会合で利上げを決定しなかったのは)経済への確信が不足していることの反映ではない」、「以前考えていたよりも経済にはもう少し改善の余地がある」などといった、どちらかと言えば頼もしく思える(タカ派的な)発言が多く聞かれました。なかで最も筆者が興味を惹かれたのは「人々が良い仕事を求めるようになったため、雇用の改善が足踏みしている」という一言です。この言葉がどのようなことを意味しているのかは、もうすでにお判りでしょう。

本欄の9月14日更新分でも触れているように、毎月の「米求人労働異動調査(JOLTS)」の結果などを見れば、目下の米労働市場が"超売り手市場"の状態になっていることは明らかであり、求職者側の要求水準は見る見る高まっています。当然、いずれは企業側も賃上げや雇用条件改善の要求に応じざるを得なくなり、自ずと米国の人々の消費マインドは熱気を帯びてゆくこととなるでしょう。結果、時間の経過とともに米国の個人消費は活性化して行くことになるものと見られます。

多くの市場関係者が、米大統領選直前の日程となる11月のFOMCで利上げを決定することは非現実的だとしています。それは道理であるとしても、12月のFOMCでの利上げ決定は少々手遅れとなる可能性もあるのではないでしょうか。実際、イエレン氏も先の会見で「近い将来に政策が後手に回るリスクがある」と述べていました。

今回のイエレン氏による様々な発言を元に考えますと、やはり米国経済の先行きをいたずらに悲観したり、安易にドルを売り仕掛けたりすることは少々憚られます。そもそも、今後のペースがどうなるかは別にして「現在、政策金利を引き上げる方向にあるのは世界の中でも米国だけ」という紛れもない事実を再認識しておくことは重要でしょう。

コラム執筆:田嶋 智太郎
経済アナリスト・株式会社アルフィナンツ 代表取締役