周知のとおり、米ワイオミング州のジャクソンホールで催された経済シンポジウムにおいて、イエレンFRB議長が「この数カ月で追加利上げへの説得力が増した」と講演し、後にフィッシャーFRB副議長が「イエレン議長の発言は9月利上げの可能性と整合」と述べたことから、俄かに市場は9月米利上げの可能性をも織り込む必要に迫られています。

"織り込む"というのは、一つに「9月利上げの可能性に賭けて新規にドルを買って円を売る」ということでもありますが、より現実的には「一応の備えとして、これまで積み上げてきた円買いポジションを事前に解消し、ドルを買い戻しておく」という意味合いの方が強いのではないかと思われます。実際、シカゴ通貨先物市場における大口投機家の円買い越しは8月23日時点で6万枚超にまで膨れ上がっていました。

もちろん、フィッシャー副議長が指摘しているように「今後のデータ次第」であることは間違いなく、その意味では、今週末(9月2日)に発表される8月の米雇用統計の結果に市場の関心が集中するのも当然のことと言えるでしょう。仮に、その結果が強めに出たならば、市場はますます9月米利上げの可能性を織り込む必要に迫られることになり、次回の米連邦公開市場委員会(FOMC)が行われる9月下旬までに、円買いポジションの解消が一段と進むこととなる公算が大きいと見られます。

すでに、ドル/円は一時的にも103円台を回復する強めの動きとなっており、下図に見られるとおり、ここで再び今年1月29日高値と5月30日高値を結ぶレジスタンスラインを試すような展開になってきました。同ラインは今年1月下旬から形成されている「中期下降チャネル」の上辺にもあたり、同ラインを上抜けるということは、すなわち「下降チャネルを上放れる」ということでもあります。

実のところ、本欄の7月20日更新分においても前記のレジスタンスライン(下降チャネル上辺)とドル/円の位置関係に関わる話題に触れたことがありました。そして結局、当時のドル/円は同ラインや89日移動平均線(89日線)、一目均衡表の日足「雲」下限など複数の強い上値抵抗に押し戻されるような格好で、当面の戻り一服から反落の動きへと転じることになったのです。

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8月の米雇用統計が発表される9月2日時点のレジスタンスラインは103円台半ばあたりに位置することとなり、今回も文字通り同ラインが上値抵抗となる可能性は否定できません。また、仮に同ラインを上抜ける動きが見られても、その上方に控える日足「雲」や89日線といった重要な節目が、年初来幾度も目の当たりにしたケースと同様、ドル/円の上値を押さえる可能性もあるものと思われます。

とはいえ、当面の上値抵抗となり得る重要な節目が複数控えているなかで、仮にそれらを一気に突き破って行くような動きとなったならば、そこからは一気にドル/円の上方視界が開けてくる(上値余地が拡がってくる)ことになると思われます。あくまで「データ次第」であるとはいえ、目下のドル/円が非常に興味深い局面を迎えていることは間違いありません。これまで、まるで絵に描いたかのようにガッチリと上値を押さえこんできた複数の抵抗に対して、今回ドル/円がどのような関わり方をするのか、ここは大いに注目しておきたいところです。

コラム執筆:田嶋 智太郎
経済アナリスト・株式会社アルフィナンツ 代表取締役