みなさん、こんにちは。『今どき株で儲けるヤツは、「業種別投資法」を使っている』著者の長谷部翔太郎です。株式市場はまだまだ乱高下が継続しています。一旦は落ち着きを見せていた米国の株式市場も、貿易摩擦への懸念台頭やIT産業の情報管理懸念から再び波乱の様相を呈しています。中東情勢や対話が進展するかに見えた朝鮮半島情勢も、俄かに複雑怪奇な政治ゲームと化しつつあり、世界的に先行不透明感は増してきつつあるように思えます。しばらくはまだリスクオフの継続も止むなしというところなのかもしれません。筆者は、絶好の買い場を我慢強く焦らずに待つ、という投資戦略が当面は有効なのではないかと考えています。

さて、そういった情勢に関連して、今回は「業績ガイダンス」をテーマに採り上げたいと思います。業績ガイダンスとは、上場企業が決算発表において明らかにする今期の業績見通しのことを指します。業績見通しの開示は義務ではないのですが、証券取引所は業績見通しの開示を勧めており、実際には上場企業のほとんどがこの勧めにしたがって見通しを開示しています。企業によっては、より詳細な見通しやその前提などについて説明を加えることもあります。そして、このガイダンスが株価の波乱要因となるケースが少なくないのです。これから本決算の発表シーズンを迎えます。筆者はそこで明らかにされる業績ガイダンスがこれまでになく注目度が高まってきていると考えています。

今回、業績ガイダンスが通常よりも注目される理由は大きく2つあります。1つ目は、アベノミクスを契機とした景気拡大の腰折れ懸念が徐々に高まってきていること、です。景気の先行指標とされる株価は、年初来大きく調整したままの状態が続いており、早期反発はおろか、未だに底を打った感もありません。株価低迷が長期化するにしたがい、実は景気失速を株式市場は予見し始めているのではないか、とのシナリオも無視できなくなってきていると云えるでしょう。そうなると、「ファンダメンタルズは好調だ。株価は実態と乖離している(つまり、株価が間違えている)」との立場にある強気派は、方向転換を今後強いられることにもなりかねません。まさに難しい判断が迫られるところなのですが、そのタイミングで業績ガイダンスが出てくることになるのです。

業績ガイダンスでは、企業が今期の業績の手応えをどう感じているのかが端的にわかります。これまでの成長速度に対して慎重なガイダンスが出てくれば、やはり企業側は何がしかのリスクを想定しつつあるのでは、と推定することができます。そういった企業が多数出現してくれば、実は景況感は転換点を迎えているというサインと捉えることも十分可能でしょう。このことは年初からの株価調整を、過熱感からの日柄調整と位置付けるか、景気の転換点を見据えたシグナルと位置付けるか、という判断にも直結することに他なりません。これまでになく業績ガイダンスが注目されるのは、相場の大きな流れの変化を見定める絶好の材料となるからなのです。

業績ガイダンスに今回特に注目する2つ目の理由は、コスト上昇圧力もまた着実に高まっていること、です。昨今は様々なところでコストの上昇が見られるようになりました。強烈な人手不足はその代表格で、そのために至るところで人件費・外注費の上昇、工期・納期の遅延も散見されています。おそらくはほとんどの企業でコストの上昇が発生しているのではないか、と想像します。もちろん、コストアップを吸収できるくらいに売上が拡大すれば問題はありません。しかし、例え景気拡大が進んでいたとしても、売上拡大がそこまでに至らなければ増収減益となりかねません。これは減益という観点で株価にはマイナス材料となるでしょう。単純に「売上が増えているのだから、景気は好調であり、問題ない」とは判断できなくなってしまうのです。果たして、コストの上昇実際にどの程度まで企業は織り込んでいるのか、そして、その上昇を吸収できるだけの売上を確保できるのか、は非常に重要なチェックポイントになると考えます。

振り返れば、平成バブル(1986-1993年)の後半は、まさにそういった状況であったことを記憶しています。景気の過熱から資材費の高騰や人手不足が深刻化し、1990年くらいから多くの企業が増収減益に転じ始めました。この時点で既に(コスト上昇を吸収できない程度という意味で)売上増加には勢いが失われていたのです。そしてバブル最終局面では、コスト上昇が続く一方、売上はさらに失速し、減収減益となり、その後の「失われた20年」へと突入していきました。現在がかつてのバブル期と同じとは考えませんが、似たような系譜を辿りつつあるのも事実でしょう。筆者は、この点に非常に興味を持って業績ガイダンスに注目したいと思っています。

コラム執筆:長谷部 翔太郎(証券アナリスト)

日系大手証券を経て、外資系投資銀行に勤務。証券アナリストとして、日経や米Institutional Investors誌などの各種サーベイで1位の評価を長年継続し、トップアナリストとして君臨する。外資系投資銀行で経営幹部に名前を連ねた後、現在は経営コンサルティング会社を経営する。著述業も手がけ、証券業界におけるアナリストのあり方に一石を投じる活動を展開中。著作は共著を中心に多数。