ここ数日、市場のムードは一気に明るさを取り戻してきました。ブレグジット・ショックによって大きく値を下げたドル/円やクロス円、日米の株価指数などが、その下げ幅に対してかなりの部分を取り戻す動きとなっています。

ことにNYダウ平均やS&P500種といった代表的な米株価指数が、過去最高値を更新するほどの力強い動きとなっていることは特筆すべきでしょう。今のところ米利上げ観測は大きく後退した状況となっており、そのことが目下の米株高を支える一因となっていることも事実ですが、現実に株価が上昇していることで、その資産効果が米国経済の成長の一助となり、いずれ再び米利上げ観測が盛り上がってくる可能性もあるものと思われます。

先週8日に発表された6月の米雇用統計で非農業部門雇用者数の伸びが前月比+28.4万人と予想を大きく上回る結果になったことは確かに一つのポジティブ・サプライズでしたが、そのことはさておいたとしても平均時給の伸びが前年同月比+2.6%と相変わらず高い伸びを示していることは大いに評価されるところです。アトランタ連銀が集計している「賃金上昇トラッカー」によれば、5月の賃金の伸びは前年同月比+3.5%という結果で、これは米雇用統計における平均時給を先行するものとされています。つまり、今後一段の伸びが期待できるというわけです。

米国の人々の賃上げ期待が一段と強まり、近い将来においてそれが本格的な消費拡大へと結びついて行くというシナリオは、より現実的なものとなってきています。そうした流れに対してブレグジットは一時的にも水を差す格好となりましたが、9月まで待たねばならないと思われていた英国の次期首相がすでに確定し、数ある不透明要素の一つが解消されたことは米国経済やドルにとってプラスです。さらに、明日(14日)のイングランド銀行金融政策委員会(MPC)において利下げの決定が下されることとなれば、ますますドルの優位性は高まるというものでしょう。

昨日(12日)のドル/円は一時104.99円と105円台にあと一歩のレベルにまで値を戻す動きとなりました。結果、21日移動平均線(21日線)を上抜け、さらに6月24日の日中高値から日中安値までの下げに対する61.8%戻し=103.80円の水準をも上回ることとなったのです。さすがに、心理的節目としても重要な105円という水準の手前では一旦上げ渋ることもあり得るものと思われますが、ここで下値の堅さが確認されれば、次に5月30日高値から6月24日安値までの下げに対する50%戻し=105.21円、61.8%戻し=106.69円などが試される可能性も十分あるものと思われます。

この61.8%戻しの水準は、ブレグジット確定前の高値(106.80円)と同レベルであり、まずは同水準まで値を戻すことが相場持ち直しの"一里塚"ということになるものと見られます。さらに、少し長い目で同水準を明確に上抜ける展開となってくれば、いよいよ昨年6月高値からの調整は終了したとの感触も得られるようになってくるでしょう。

ただ、足下で盛り上がっている諸々の期待が一時的にも失望に変わったり、とりあえず材料出尽くしになったりして、もう一度調整含みの展開となる可能性は残されています。目先は日本政府による大規模な政策発動や日銀会合への期待がそれで、少し先には7月の米雇用統計の結果が待ち受けています。次の米雇用統計にブレグジットの影響が及んでいる可能性は否定できず、その結果次第では再びドルが一時的に売り戻される可能性もあるものと一応は心得ておく必要があるでしょう。

コラム執筆:田嶋 智太郎
経済アナリスト・株式会社アルフィナンツ 代表取締役