英国の欧州連合(EU)残留・離脱を巡る国民投票を明日(23日)に控え、市場の関心はそこに一点集中しています。市場関係者による大方の見方は「英EU離脱ならばドル/円は100円前後、日経平均株価は1万4,000円前後まで一時的にも下落する可能性があると見られ、「残留」ならばドル/円は106~108円程度まで、日経平均株価は1万7,000円程度まで一旦は戻る可能性が高い」といったところで共通している模様です。
もちろん、仮に英EU離脱という結果になり、一時的にも市場が混乱した場合には、直ちに主要国の中央銀行が強い協調体制を構築して政策対応に乗り出すでしょうし、本邦当局も必要な措置を講じることで事態の収拾を図ることでしょう。よって、最終的な結果がどうあれ、あまり慌てふためくことなく冷静に事態を見守りたいところです。
逆に英EU残留という結果になった場合は、とりあえずドル/円やクロス円、ポンド/ドルやユーロ/ドルなども一旦戻りを試す展開となる可能性が高いと見られますが、そうした目先の流れがそのまま今後の相場の強い基調になって行くとは限りません。
実のところ、なかには「たとえ英EU残留が決まっても、円の先高観が強い状況は続く」と見る向きもあります。そうした向きは、その根拠として「足下で米利上げ観測が後退していること」や「日本の経常収支における黒字が拡大していること」などを挙げているわけですが、果たしてこれらの点を今後どう見て行けばいいのでしょう。
米利上げ観測の後退には、英EU離脱懸念という要素も内包されており、仮に英EU残留となれば、ひとまずその要素は外れます。5月の米雇用統計における非農業部門雇用者数(NFP)の結果を受けて、米国経済がリセッションに向かうと見る向きもありますが、それは少々穿ち過ぎた見方と言えるでしょう。5月のNFPが異常値だった可能性もありますし、米労働市場が引き締まっているがゆえに雇用者数の伸びが自ずと減速した可能性もあります。何より、賃金の伸びは続いていますし、個人消費の堅調に伸びています。
4月の日本の経常収支において黒字が前年同月に比べて41%伸び、9年ぶりの高水準となったことは事実です。原油安で輸入が減り、貿易収支が前年の赤字から黒字に転換したことや訪日外国人の増加などが黒字の増加に寄与したということですが、まだ4月は現在よりずっと円安&原油安であったこともまた事実です。
一方で、財務省が今週20日に発表した貿易統計速報によると、日本の5月の貿易収支は4カ月ぶりの赤字に転じました。この結果には、このところ原油価格が強含みで推移していることや一段の円高が進んでいることが大いに影響しているものと見られます。当然のことながら、円高になるほど輸出は伸びにくくなり、訪日外国人の増加ペースも鈍ります。
下図に見るように、2010年以前の日本の貿易収支は長らく大幅黒字の状態を続けていましたが、2011年に入ってからは徐々に赤字が膨らみました。これは2011年10月にドル/円が史上最安値をつけて反発したことと符合します。また、2015年以降は徐々に赤字が減少し、2016年に入ってから一気に黒字が膨らむ状態となりました。これは2015年5月にドル/円が125円台の高値を付けて反落し、その後一気に円高が進んだことと符合します。その意味で、5月の貿易収支が赤字に転じたことは今後の円相場を見据えるうえで重要な事柄の一つと言えます。6月以降の結果にも引き続き注目しておきたいところです。
コラム執筆:田嶋 智太郎
経済アナリスト・株式会社アルフィナンツ 代表取締役