CETA(Canada-EU Comprehensive Economic and Trade Agreement)とは、「カナダ・EU自由貿易協定」のことである。欧州委員会はCETAについて、経済成長や雇用の創出、関税の低減、技術や消費者保護基準の統一などにより、欧州企業に大きなメリットがあるとしている。

今年10月、このCETAの締結を巡り、一騒動があった。欧州のCETA承認手続きが、ベルギーの一地方議会であるワロン議会によって待ったをかけられたのである。

CETAの署名には、欧州基本条約(リスボン条約)に基づき、EUすべての国の議会による承認が必要であり、国によっては、国内手続きとして地方議会による承認が必要となっている。ベルギーの場合、連邦政府が対外的な協定を承認する際には、地方議会によって連邦政府に権限が付与されなければならない。そのため、地方議会の一つであるワロン議会がCETAの批准に反対する動議を可決したことで、ベルギーがCETAに批准できなくなり、EUもCETAに署名できなくなった。

ワロン議会が反対したのはなぜか。ベルギー経済は、全体としてみると悪くはないが、南部と北部で大きな格差が厳然と存在する。南部にあるワロン経済は農業に基盤を置いており、北部フランデレン地方と比較して貧しい。CETAによりワロン地方の農家が不利益を被ることが懸念され、ワロンの地方議会がCETAに反対したのである。

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最終的には、ベルギーのミシェル首相とワロン地方政府との間で合意に至り、CETAは署名されたが、この出来事は今後EUが直面するであろう課題を浮き彫りにするものであった。欧州では、来年、各国で主要選挙が予定されている。懸念されるのは極右政党の勢いが強まっている点だ。選挙結果によっては、ワロン議会同様に反自由貿易の機運が高まりかねない。

3月に選挙が行われるオランダは、比例代表制がとられ、伝統的に単独政権ではなく、連立政権が政権を担ってきた。この選挙において、極右政党である自由党が伸張すれば、連立政権を担う政党数が現状より増える可能性がある。そうなると、自由貿易に対する各政党の姿勢が異なることから、国会での承認手続きが遅くなる、若しくは承認できない事態に陥るかもしれない。

4月から5月にかけて行われるフランスの大統領選挙においても、自由貿易に背を向ける極右政党の大統領が選ばれる可能性もある。その場合には、フランスはEUによる自由貿易協定の交渉開始や承認に応じなくなるだろう。

秋以降に行われるドイツ連邦議会選挙においては、極右政党が伸張した場合、メルケル氏の政権基盤が弱くなり、ドイツ国内向けの政策により重心を置かなければならなくなる。そうした状況では、EU加盟国間の調整に指導力を発揮しにくくなるだろう。

欧州はこれまで自由貿易を標榜してきたが、今年6月、英国が国民投票でEU離脱を決めるなど、風向きが変わった。さらにこれら選挙結果次第では一気に保護貿易主義に傾斜しかねない。2017年は、欧州の選挙に注目である。

コラム執筆:佐藤 洋介/丸紅株式会社 丸紅経済研究所

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