1.高い潜在力を有していながらも・・・

日本の5倍の国土面積、2倍の人口を有していることに加え、天然資源にも恵まれており、経済成長の潜在力の高さから「眠れる大国」とも言われるインドネシアですが、ジョコ大統領就任後3年目を迎えた今日でも、大きな期待に対して今ひとつ冴えない状況が続いています。

インドネシア中央統計庁は今月7日、2016年7~9月期の国内総生産が前年同期比で5.02%増となったことを発表しました(図表1インドネシアの実質GDP成長率と項目別寄与度)。4~6月期の5.19%増(確定値)からは減速となりましたが、4~6月期は政府予算を前倒しして歳出を実行、政府消費を加速させました。それに対して7~9月期は歳入不足のため歳出を大幅に見直している中での数字であり、5%を下回るという事前予想もあったことを考えると上出来と言えるのかもしれません。しかし、2007年から2012年までのうち、リーマンショックがあった2009年を除けば6%超の成長を続けていたことや、国としての潜在力の高さなどを考慮すると物足りなさを感じますし、未だに経済の資源依存度が高い証左であるとも言えます。

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2.ジョコ政権の経済対策

もちろん、ジョコ政権も手を拱いている訳ではありません。インドネシアの成長率を引上げるためには非資源分野での輸出の拡大が鍵になります。ジョコ氏は2019年までに約5,400兆ルピア(約40兆円)規模のインフラ整備を実施する方針であり、それを最重要課題に掲げ、実行しつつあります。また、インフラ整備以外にも規制緩和で国際競争力を引き上げ、ビジネス環境の向上に取り組んでいます。例えば、現地法人の設立については各省庁の許認可を取得する必要があるために従来であれば3週間程度を要していましたが、一定の条件を満たす案件については、現在では3時間以内でそれができるようになっています。

そのような改善の効果もあり、世界銀行が先月25日に発表した「ビジネス環境の現状2017(Doing Business 2017)」においてインドネシアは91位にランクされ、ジョコ氏就任前のデータが基準となっている2015年版(120位、同)から順位を大きく上昇させました(図表2東アジア・東南アジア主要国の「ビジネス環境の現状」ランキング)。

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※注:2015年版と2017年版の間の順位の改善だけに着目すると、インドネシア(117位→91位)は世界で3番目に改善が進んでいる。同期間にインドネシアより改善が進んだ国はブルネイ(113位→72位)とケニア(127位→92位)、のみ。一方で、順位(2017年版)の比較ではインドネシアは競合となる他の東南アジア諸国の後塵を拝している(シンガポール:2位、マレーシア:23位、タイ:46位、ベトナム:82位)。

3.問われる政策の実行力

2014年10月に就任したジョコ大統領の任期は三年目を迎えました。就任当初はクリーンなイメージが人気を集め、政権発足当初は7割を超える支持を集める一方、国政経験の無さ、脆弱な党内および議会での支持基盤といった状況から困難な船出が予想されました。2014年11月には、燃料補助金の削減やそれに伴うインフレ、さらに2015年1月には、ジョコ氏が汚職の疑いがある人物を次期警察庁長官に指名したことに端を発する汚職撲滅委員会と司法・警察の対立などから、2015年半ばにかけてジョコ政権に対する支持率は4割前後まで下落しました。

しかし、その後二度の内閣改造を通じた最大野党の与党連合への取り込みや、所属する闘争民主党の党首であるメガワティ元大統領の影響力の制御などにより大統領としての力を強めたことや、インフラ整備を含む経済政策パッケージによる景気対策などにより、直近の世論調査によれば再び7割近い支持率を得ているようです。

また、双子の赤字というぜい弱な経済構造から黒字の定着が見通しにくく、暫く続いていたルピア安も本年半ば以降は比較的安定しています(図表3ルピア/ドル名目為替レートの推移)。

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ジョコ氏以前の政権もその重要性を認識、対策を講じていたものの抜本的な改革に至らなかったインドネシアの投資環境および産業構造の改革は容易ではありません。ジョコ政権における計画も一部のものは既にその遅れが指摘されています。しかし、政治基盤と金融市場が安定を取り戻し、政権の力や政策の自由度が増した追い風の状況の今こそ、改革を実行、完遂できるか手腕が問われます。「眠れる大国」が目を覚ますのか、潜在力を秘めたまま眠り続けてしまうのか。

コラム執筆:近内 健/丸紅株式会社 丸紅経済研究所

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