経済産業省は、「エネルギー革新戦略」の重要施策の一つである「バーチャルパワープラント構築実証事業」を今年度よりスタートさせた。本事業は、5年間の実証事業で、2016年度予算は約30億円、2017年度の概算要求では倍額の60億円を計上し、2020年の商用化に向けて盛り上がりを見せている。
バーチャルパワープラント(VPP)とは、電力グリッド上の分散エネルギー資源(DER:Distributed Energy Resources)を統合し、制御することで、あたかも「一つの発電所(仮想発電所)」のように運営することである。DERには、太陽光発電のような再生可能エネルギー発電設備、蓄電池や電気自動車(EV)のような蓄電設備、およびデマンドレスポンス(DR)のような需要家の節電が含まれる。
例えば、電力不足時には、太陽光発電や蓄電池からの放電で不足分を補ったり、DRで需要を減らしたりして需給のバランスを取る。電力余剰時には、蓄電池に蓄電したりエアコン等の機器を稼働させたりして需要を増やす。これらDERを、IoT(モノのインターネット化)を駆使してひとまとめに遠隔制御し、電力系統の需給調整力等を生み出すのがVPPであり、その運営事業・サービス提供を行うのが「アグリゲーター」である。サービス提供先は、系統安定化を図る送配電事業者、インバランス(計画誤差ペナルティ)の回避を図る小売電気事業者、出力抑制回避を図る再生可能エネルギー発電事業者等になる。
今年度のVPP実証事業の採択件数は7件、合計の制御容量は19.1MWとなった。アグリゲーターには、関西電力や東京電力エナジーパートナーといった電力会社、SBエナジーやエナリスといった新電力、およびNECやアズビルといったメーカーが参画した。特に、関西電力陣営の取組みは、参加企業数が14社と最大で、DERも太陽光・EV・空調と多岐にわたり、大型蓄電池も組み込んでいる。これらの多様なDERを組み込んだプラットフォームを構築できるか注目である。
今後の見通しはどうだろうか。国は、VPP構築の目標を「2020年までに50MW以上」とおいているが、5年間で50MWという規模では、東京オリンピック向けのショーケースと思われても仕方がないだろう。先行する欧州では、例えばドイツのNext Kraftwerke社は、設立5年あまり1,000MWを超える制御量を確保している。また、世界のVPPの容量は、2014年の4,800MWから2023年には28,000MWと5倍以上に拡大するとの米国の調査会社の調査結果(注1)もある。
日本は、本気でVPPの商用化を目指すのであれば、2020年の発送電分離によるビジネスチャンスの拡大を踏まえて、目標を引き上げるべきではないだろうか。2019年より、固定価格買取制度の期間満了の住宅用太陽光発電設備が多量に出始める(2019年は約2,000MW)。また、蓄電池やEVの普及拡大も予想されており、安価なDERを大量に確保できる環境が整うはずである。
VPPの事業性は、2017年4月に創設されるネガワット市場での取引状況、送配電事業者の調整力公募の結果、および容量メカニズム等のシステム改革の議論を踏まえないと判断できないだろう。しかしながら、VPPは、新たなエネルギーシステムの構築、新ビジネスの創出に資するものであるため、高い目標を掲げて官民あげて推進してもらいたい。
(注1)Navigant Research社ホームページより
「Capacity of Virtual Power Plants Worldwide is Expected to More than Quintuple by 2023」
http://www.navigantresearch.com/newsroom/capacity-of-virtual-power-plants-worldwide-is-expected-to-more-than-quintuple-by-2023
コラム執筆:松原 祐二/丸紅株式会社 丸紅経済研究所
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