貿易の拡大ペースが鈍っている。世界の貿易量は2008年の世界金融危機まで経済成長に伴い拡大してきたが、世界金融危機後の落ち込みと回復を経た後は、2011年頃から拡大ペースが鈍化した。2015年以降は停滞感が漂っている(図表1)。

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注目されるのは、そのペースダウンの度合いである。90年代から世界金融危機までは、ほとんどの年で貿易伸び率が世界GDP成長率を上回っており、両者がともに伸びてきたが、2012年以降は貿易が減速し、その伸び率が世界GDP成長率を下回る状態が続いている(図表2)。

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このように経済成長に比べて貿易が伸び悩む状況は「スロー・トレード」と呼ばれている。スロー・トレードの原因として、世界経済の減速などの循環的要因のほか、グローバル・バリューチェーン形成の鈍化や中国の内製化の進展などの構造的要因が指摘されている。

スロー・トレードに対する構造的要因の寄与が大きければ、この状況が長期化する可能性があるが、そうしたなかでも比較優位の観点から自由貿易を推し進めるたゆまぬ努力を続けることが、世界経済にとって大きな意味を持つ。グローバルな経済活動を貿易によって勢いづけることが必要だ。

ところが、世界貿易への逆風が強くなってきている。世界の内向き志向の強まりである。米国では大統領候補がそろってTPPに反対の姿勢を示している。欧州でも、英国がEU離脱を決め、EUの単一市場に亀裂が生じ始めた。世界的に保護主義的な動きも増えており、WTOによると、主要20カ国・地域(G20)による貿易制限措置(アンチダンピング調査等)は、2009年のモニタリング開始以降で最多ペースとなっている。

こうしたなか、世界貿易の主要なプレーヤーが貿易自由化の流れを止めないという強い意識を共有することが重要である。7月に上海で開催されたG20貿易相会合では、貿易・投資が世界経済の成長にとっての重要なエンジンであり続けるべきであるという共通認識が確認され、保護主義に反対する声明が採択された。各国が協調して保護主義に立ち向かい、貿易というエンジンが力強さを増すことを期待したい。

コラム執筆:金子 哲哉/丸紅株式会社 丸紅経済研究所

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