食品表示法の改正によって、栄養成分表示の義務化や原材料等の表示方法の変更がなされた。それでは電気についても原料の表示ルールが検討されていることはご存じだろうか。電気はどの事業者から買っても基本的に同じ電気であるため、原料表示と聞いてもピンとこない人もいるかもしれない。ここで言う「原料」とは、火力や原子力、再エネといった電源のことで、来年4月の小売全面自由化にともなって、販売する電気の電源構成の開示を小売電気事業者に求めるというものだ。表示ルールが電力小売ビジネスにどのような影響を与えるのだろうか。

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(1)需要家は嗜好に合った供給先を選びやすくなる

現在、我が国は原発停止にともなって火力による発電量が増加し、CO2排出量も増えている状況だ。一方、COP21に向けて、政府は2030年までに13年比で26%削減する目標案を発表した。今後、CO2削減の社会的圧力が強まるとみられる中、低炭素電源で発電された電気は環境価値の高い商品として差別化されるため、「原料」表示が事業者にとってアピール手段の一つとなる。新たに自由化対象となる一般家庭の中でも環境意識の高い需要家は、クリーン電気を供給してくれる事業者に切り替えるかもしれない。需要家は、自分の嗜好に合った電気の供給先を選びやすくなるのだ。

(2)クリーン電気市場の拡大は限定的

日本生活協同組合連合会が20~59歳の男女1,000人を対象に実施したアンケートによれば、「電気料金が値上がりするとしても、再生可能エネルギーを利用したい」と回答した人が約54%だった。そのとおりならば、クリーン電気の需要は大きいといえる。しかし、クリーン電気の普及には供給量の少なさが課題だ。固定価格買取制度(FIT)の認定を受けた電気はクリーン電気とみなされない。FIT電気の環境価値は賦課金の負担者全体が受けているため、政府は事業者がFIT電気の環境価値を付加価値としてアピールすることを認めない方針を示した。また、自治体保有のFIT対象外の水力等で作られた電気についても、既存の電力会社との長期の売電契約が中心となっており、現状のままでは事業者の調達源にはならない。つまり、実際に事業者がクリーン電気として販売できる量はまだ限定的なのだ。

(3)電気偽装問題が起こる?

「原料」表示のルール化にあわせて起こりそうな問題として、食品偽装ならぬ電気偽装が考えられる。「原料」表示をごまかそうとしたり、誤解しやすい表現を宣伝文句に使う事業者がでてくるかもしれない。たとえば、再エネは一般的にゼロエミッション電源とされているが、CO2排出量がまったくゼロというわけではない。発電設備の建設や運用・保守等の過程で排出されるCO2も含めると、少ないながらも排出しており、太陽光と風力については原子力よりも排出量が多い。このため、再エネ発電の電気を販売する際に、「CO2ゼロ」などという宣伝文句を使えば偽装と言われても仕方ない。需要家の誤解を防ぐには、事業者に電源ごとのライフサイクルCO2排出係数を表示させるのが有効だろう。

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ところで、再エネに関する「原料」表示に関して、FITの適用を受けた電気である場合に、以下のような説明文(政府の検討案)を記すことが義務づけられる方針だ。

「この電気は、全国の需要家の皆様に御負担いただいた賦課金に基づく交付金による補填を受けたものであり、CO2排出量ゼロという価値などの再生可能エネルギーであることの付加価値を有しておりません(CO2フリーの電気とは異なります。)。」
出典:電力システム改革小委員会 制度設計WG(第13回)配布資料

食品表示法と同様に需要家にわかりやすい表現を目指すのであれば、上記のような回りくどい表現は見直す必要がある。8月3日に小売電気事業者の事前登録が始まり、事業者による営業活動がいよいよ開始されるため、需要家は自分の嗜好に合った供給先を賢く選択できるよう、今のうちから電力リテラシーを身につけておく必要があるだろう。

コラム執筆:堅川 陽平/丸紅株式会社 丸紅経済研究所

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