原油価格の頭が重い。2014年6月にはウクライナにおけるマレーシア機撃墜や、イラクにおける武力衝突といった地政学的リスクが高まった。それにもかかわらず、原油価格(ブレント)は1バレル当たり115ドルまでしか上昇しなかった。そして、未だ地政学的リスクが残る中、2014年9月の現時点では、2013年6月以来の安値である同100ドル近辺まで下落している。背景には、原油需給の緩和がある。
原油需給の緩和理由の一つに、OPEC諸国以外の生産量の増加がある。過去5年(2008-2013年)の生産量の増加を見ると、米国、ロシア、カナダの増産が目立つ(※1)。【図1】このうち、米国はシェールオイル、カナダはオイルサンド由来の原油で、これらは通常の油田以外から産出される、非在来型と呼ばれる原油だ。
(※1)OPECにおいては、サウジアラビア、イラク、UAEの増産がイラン、リビアの減産を相殺しているため、合計では大きくは増加していない。また、OPECには世界需要にあわせた生産量の目標値が存在する。
非在来型の原油は、通常の油田から算出される在来型の原油に比べて一般的に開発コストが高い。【図2】しかし、原油価格の上昇や技術革新による開発コストの低減によって事業の採算性が向上したため、生産が増加しているのだ。
米国で生産が増加しているシェールオイルは、シェールガス同様に、頁岩(シェール)という固い岩盤に存在する原油である。採掘技術の確立によって商業生産が可能となり、生産量が増加した。米国のシェールオイルの増産は今後も続くとみられている。米エネルギー庁(EIA)は、シェールオイルを含むタイトオイルの原油生産量は、2021年には2013年比で約1.4倍に拡大すると予想している。
一方、カナダのオイルサンドは高粘度の原油(超重質油)を含む砂岩である。生産コストの高さが開発の課題であったが、原油価格の上昇がそのハードルを下げた。カナダのオイルサンド由来の原油生産量は、2013年までの過去5年間で1.6倍に拡大した。量にすると日量74万バレルの増加で、これは消費量で世界第3位である日本の消費量2ヵ月分に相当する。カナダ石油生産者協会(CAPP)によると、消費量は2030年には2013年比でさらに1.5倍への拡大が見込まれている。
しかし、非在来型原油の生産がすべて順調という訳ではない。ベネズエラはオリノコタールと呼ばれる、膨大な超重質油の確認埋蔵量を持つ。【図3】ところが、カナダと違ってベネズエラの原油生産量は2006年をピークに減少し続けている。理由は、2007年のオリノコタール開発事業の国有化に伴い、プロジェクトに携わっていた米系海外資本が撤退したことが大きい。現在でも生産計画には遅れが生じており、一部の海外企業はプロジェクトからの撤退を表明している状況だ。
また、巨大な深海油田を持つブラジルの生産量も、2011年をピークに頭打ちとなっている。2007年に発見されたプレサルと呼ばれるこの深海油田は国営のペトロブラスによって開発されている。当初は注目を集めたが、開発コストの高さと、各々の開発プロジェクトに3割以上の資本参加を義務付けられたペトロブラスの財政難から、海外企業の投資が伸び悩んでいる。
現状では、非在来型原油の開発状況は、プロジェクトによってはっきり明暗が分かれている。いくら原油価格が上昇し、開発技術が進歩しても、カントリーリスクまで含めたコストに見合う案件でなければ開発の大幅な進展は難しそうだ。加えて、今後は温室効果ガスの削減という要因も避けて通れなくなりそうだ。しかも、その環境対策コストはかなり大きなものとなる可能性がある。【図2】ただでさえ開発コストの高い非在来型資源においては、新規開発に対するハードルが上がるかもしれない。
確かに、長期的な視点に立てば、これらの資源も開発が進むと見られている。国際エネルギー機関(IEA)は、2012年から2035年までの原油生産の増加について、ブラジルはイラクに告ぐ2番目、ベネズエラも6番目に増加するとの見方を示している。しかし、カントリーリスクが解消されずに環境コストが増加した場合、思ったほど増産されない可能性もある。そして、このような環境下において開発コストの高い非在来型原油の開発が進むためには、原油価格の高止まりが前提として必要であることは間違い。
コラム執筆:村井美恵/丸紅株式会社 丸紅経済研究所
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