6月1-3日、横浜において、第5回アフリカ開発会議(TICAD V)が開催されました。今回は、51か国・39名の国家元首・首脳級をはじめ、国際機関及び地域機関の代表等の関係者4,500名が集まり、日本が主催する国際会議として過去最大の規模になりました。最終成果物として、今後のアフリカ開発の方向性を示す「横浜宣言2013」およびそれを具体化した「横浜行動計画2013-17」が発表されましたが、この中から「民間投資」、「RECs」、「農業」、「人づくり」という4つのキーワードを取り上げて、TICAD Vの主な内容を振り返ってみたいと思います。
【民間投資】
第55回のコラムで指摘したように、世界全体でみれば、民間資本のアフリカへの流入は政府開発援助(ODA)を上回るようになってきていますが、日本はいまだにODA中心になっているのが現状です。このため、今回のTICAD Vでは民間投資を促進することが大きなテーマであり、実際にアフリカ側からも「援助より投資」との強い要望がありました。TICAD Vの中で、安倍首相は今後5年間で3.2兆円のアフリカ支援を約束しましたが、うちODAは1.4兆円ですので、差し引いた1.8兆円が投資資金と位置づけられます(内訳は官・民資金1.6兆円と貿易保険0.2兆円)。これは、援助から投資へと重心を移すとのメッセージと受け取ることも可能です。基本的に政府の思惑どおりに実施できるODAと異なり、民間企業の投資は目標どおりに実施される保証はありませんが、これは日本のアフリカ開発支援における大きな変化といえるでしょう。
【RECs】
アフリカ54か国合計の2012年の名目GDPは、約2,000億ドルで、これはインドと同規模です。さらに、世界の高成長国トップ20の半分超をアフリカが占めるため、アフリカを一塊としてみれば、大変魅力的な市場といえます。問題は、それが54か国に細分化されてしまうこと、そしてそのリンケージが良好とはいえないことです。そこで注目を集めているのが地域経済共同体(Regional Economic Communities, RECs)です。アフリカは54か国全体での政策等を仕切るアフリカ連合(African Union, AU)が存在しますが、より限定された地域で複数の国々が共通の政策やインフラ整備を実施する動きが広がっています。地域を限定することで、AUよりも機動的な政策の実施が可能となっており、東アフリカ共同体(East African Community, EAC, ケニア等5か国が加盟)、南部アフリカ開発共同体(Southern African Development Community, SADC, 南アフリカ等15か国が加盟)、西アフリカ諸国経済共同体(Economic Community of West African States, ECOWAS, ナイジェリア等15か国が加盟)等は具体的なインフラ整備計画を進めるなど、実際に機能し始めています。
TICAD IVの際よりRECsへの支援は打ち出されていましたが、TICAD Vでは、経済統合の重要性がより明確に打ち出されるとともに、広域インフラ整備とTICAD Vとの整合性の確保が示されました。現在はアフリカ諸国を個別に点として捉えることでビジネス上の魅力を実感できていない企業も、今後、アフリカでRECsを通じた経済統合が進んでいけば、いくつかの面として捉えることが可能となり、投資機会を見出すことができるようになるでしょう。
【農業】
アフリカでは、農業生産性が低く、いまだに食料不足に悩む国が多いことに加え、労働集約産業である農業は雇用吸収力が高いため、農業開発はアフリカにとって重要なテーマになっています。TICAD Vでも、「農業従事者を成長の主人公に」と題して、改めてアフリカ農業への支援を表明しています。アフリカにはFAO(国連食糧農業機関)主導の下で策定された「アフリカ農業総合開発戦略(CAADP)」という包括的なプログラムが存在し、TICAD VもCAADPの支援に取り組むことを掲げています。他方、日本がイニシアチブをとって取り組んでいる支援策には、JICA等が立ち上げた「アフリカ稲作振興のための共同体(CARD)」があります。アフリカにおけるコメ需要の増大に対応して、2018年のサブサハラにおけるコメの生産量を、2008年の1,400万トンから2,800万トンへと倍増させる計画です。
また、モザンビークで取り組んでいる「プロサバンナ」計画も見逃せません。かつて、日本はブラジルで耕作不適地とされた「セラード」という土地の開発を支援したことがあります。日本の技術協力により、同地域は世界有数の大豆の生産拠点へと変貌しました。今度はそのブラジルと組み、モザンビークに広がるサバンナを大豆等の生産拠点に育てようと計画しています。
【人づくり】
アフリカでビジネスを展開する上で、大きなネックの1つになっているのが、人材不足です。日本の企業が進出する場合、多かれ少なかれ現地の労働者を採用する必要が生じますが、アフリカではなかなか思ったような労働者を確保できないのが実情です。したがって、TICAD Vでは、人づくり、とりわけ実際に就労につながるような人材育成の支援を掲げています。援助中心の時代は、学校を作ったり、教師を派遣したりすることが主な支援策でしたが、民間投資を促進する上では、実際に民間企業で活躍できる人材を育てる必要があります。こうした背景の下で、今回、安倍首相は3万人の「産業人材」の育成に乗り出すと表明しました。
アフリカには依然として貧困・格差問題や健康問題等も存在するため、ODAや人道的支援の意義が薄れたわけではありません。一方で、いつまでたっても成長しない援助漬けの大陸、というかつてのイメージはもはや完全に過去のものであり、欧米や中国などはビジネスとしての投資を競っている状況です。アフリカが大きな変化を遂げる中、TICAD Vは、日本の企業や関係者に今一度アフリカ市場を捉えなおす良い機会になったといえるのではないでしょうか。
コラム執筆:安藤 裕康/丸紅株式会社 丸紅経済研究所
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