2013年5月31日、OPEC(石油輸出国機構)は通常総会で、現行の生産目標(日量3,000万バレル)の据え置きを決定しました。世界の原油需給は緩和傾向にありましたが、原油価格は1バレル当たりWTIで90ドル超、ブレントは同100ドル超で概ね推移していました。OPEC諸国にとってこの価格は容認できるものであり、生産枠の据え置き以外の選択肢は積極的に考え難い状況にあったと思われます。

原油とそれ以外の主要天然資源の違いの一つに、生産量のコントロールが可能な主体の存在があります。通常、需給は価格によってバランスに向かって調整されます。供給過剰になれば価格が下がり、需要の増加と開発の抑制を促します。逆に供給不足は価格を上昇させ、需要を抑えるとともに、開発の促進につながります。原油はOPECが世界の生産量を需要量に合わせてある程度調整しています。しかし、それ以外の主要資源には、資源メジャーによる市場原理に沿った生産調整はあるものの、OPECのように計画的かつ短期間に生産量の変更を可能とする目立った機能はありません。

OPECは1960年に、石油メジャーから産油国の利益を守るため、中東を中心とした産油国により結成されました。いわゆる資源ナショナリズムの先駆けです。その後、銅、ボーキサイト、鉄鉱石など、他の資源においても生産国や輸出国による連盟や機構が誕生しました。しかし、市場占有率の低さや加盟国の思惑の違いなどから、これらによる生産調整は機能せず、いずれもOPECほど需給や資源価格に対して影響力を持つには至りませんでした。

OPECは、今後も原油市場の調整者であり続けるのでしょうか。OPECの原油価格に対する影響力は、以前に比べて低下しているようです。最大の理由は、原油をはじめとするコモディティの金融商品化です。需給以外に、世界の景気や資金供給量、為替変動などによる投資資金の動きが、資源価格に大きな影響を与えるようになっています。

また、OPEC内の足並みの乱れも指摘されます。2年前の2011年6月のOPEC総会では、各国の思惑の違いが埋まらず、公式声明の発表が見送られました。その後、生産枠の合意なしに、サウジアラビア、クウェート、UAEが増産に踏み切ったのは記憶に新しいところです。最近では、米国シェールオイルなど非OPECにおける非在来型原油生産の増加にどう対応するかについて、温度差が広がっているようです。

過去を振り返ると、OPECはかつて、調整者の役割を放棄しています。1985年、原油需給が大幅な供給過剰となる中、OPECは増産に転じました。当時、OPECの大幅減産にもかかわらず原油価格の下落が止まらず、輸出収入が大幅に減少したためです。増産の結果、3割まで落ち込んでいたOPECの世界生産シェアは4割超へと回復しましたが、原油価格は長期に亘り低迷することになりました。今後も、歳入が減少し、自国の経済が立ち行かなくなるような局面に陥るような場合には、OPEC諸国が生産調整を続けることは難しくなるかもしれません。

今後の原油市場の見通しですが、2012年11月、国際エネルギー機関(IEA)は、シェールオイルの増産によって、2017年までに米国がサウジアラビアを抜いて世界最大の産油国になるとの見方を示しました。しかし、サウジアラビアは生産能力で米国に抜かれる訳ではありません。非OPEC諸国の生産量増加に伴い、OPECの盟主であるサウジアラビアの生産調整が見込まれるため、生産量で米国がサウジアラビアを上回るという訳です。仮に、サウジアラビアをはじめとしたOPECが減産しない場合、原油は供給過剰となり、価格が大きく下落する可能性が高くなります。市場はOPECに、生産を調整し価格の安定を保つ役割の継続を期待しているようです。

OPECが需給の調整者として機能するためには、OPECが容認できる原油価格が必要となります。それは現状ではブレントで1バレル100ドル程度とみられています。金融要因の影響拡大やOPEC内の足並みの乱れは懸念されますが、市場が原油供給や価格の安定を望む以上、OPECの生産調整機能は今後も維持されると思われます。その場合、原油価格が現状から大きく下落する可能性は低いのではないでしょうか。

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コラム執筆:村井美恵/丸紅株式会社 丸紅経済研究所

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