2012年3月29日、インドのニューデリーでBRICSサミットが開催され、開催国インドの他、ブラジル、ロシア、中国に南アフリカを加えた5カ国首脳が集合した。今回は4回目のBRICSサミットで、最初のサミットは、2009年6月16日、ロシアのエカテリンブルグで開催され、その後、2010年4月15日、ブラジルのブラジリア、2011年4月15日、中国海南島三亜市と続いた。南アフリカが参加するのは、第3回の中国から。

第4回BRICS首脳会議での議論を踏まえて、4月10日、先進国の財政・金融政策に注文をつけるような内容を含むデリー宣言が発表された。宣言は50のパラグラフと17のアクションプランからなっており、具体的には、以下のような内容が含まれている。

・先進国における政府債務の積み上げと、中長期的な財政への懸念が世界の経済成長を不安定にしている。更に過度の中銀による過剰な流動性供給の影響が新興市場国経済にも及び、資本移動と資源価格に必要以上のボラティリティをもたらしている。(以上デリー宣言の第5パラグラフより)。

・世界的な過剰流動性を生み出すことをやめ、雇用拡大を図るよう、先進国が責任ある経済・金融政策をとることが重要(critical)で、グローバルな金融市場管理の強化と政策協調が必要である(第6パラグラフより)。

・IMF改革の遅れは重要な懸念事項であり、(新興市場国の)経済規模を反映させる形でのクォータ制の見直しや新興市場国・途上国の発言権拡大を2013年1月までに決定し、2014年1月までに実現させるべき(以上デリー宣言第9パラグラフより)。

・世銀総裁の候補者は途上国からも出すべきであり、世銀そのものが、全ての参加国のビジョンを真に反映させるような国際機関に変革されるべきである(第12パラグラフより)
 
先進国の政策や国際機関の変革への要望の他、第18パラグラフでは、BRICS相互間の貿易投資拡大などの連携策についても触れている。首脳会議と同じタイミングで、BRICS各国開発銀行が、相互貿易促進のため、相互の現地通貨による信用供与を拡大させることや、BRICS通貨建てL/C決済に係るコストを引き下げ、取引を円滑に進めるための仕組みづくりについて基本契約を結んだが、首脳会議後のデリー宣言で、この動きを歓迎し、サポートするとしたものだ。

BRICS諸国のBRICS内輸出の合計は2010年で約3億ドルあり、世界全体向け輸出の約1割に相当する。世界の輸出額合計約15兆ドルに比べると僅か2%に過ぎないが、近年、急速に拡大している。3億ドルのうち、中国から、他BRICS諸国への輸出が約1億ドルで、3分の1を占めている。元による貿易決済は、BRICSに限らず、これまでの中国政府によるトライアル実施を経て、急速に拡大している。香港金融管理局によれば、今年1月の元建て貿易決済は230億ドル程度になっており、2010年下半期の月平均の3倍規模に拡大した。これは、年換算では、中国輸出総額の1割程度に相当する。円と元の直接取引もこの6月からスタートされたが、BRICS諸国間の動きは、こうした元国際化の流れを補強する動きといえよう。

上記のような貿易面での相互連携強化の他、デリー宣言の17のアクションプランでは、外交、財政・金融、農業、安全保障、健康、科学技術など様々な分野でのハイレベルな交流を続けることが盛り込まれている。

IMFによれば、2012年に世界経済における先進国と新興市場国の比率は半々になる。また、2016年には、先進国46%、新興市場国54%と、経済規模では新興市場国が逆転するとの見通しだ。足下では、中国経済の先行き懸念が一部で広がっているが、今では、G20がすっかり定着した感があり、中長期で見た中国および新興市場国の世界体制における台頭は後戻りできない流れといえよう。

コラム執筆:猪本 有紀/丸紅株式会社 丸紅経済研究所

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