2010年のサッカーFIFAワールドカップは、アフリカ大陸初となる南アフリカ共和国で開催されました。開催前には、『治安の悪さが心配 』、『競技場建設は間に合うのか』、といった懸念の声が多く聞かれましたが、特に大きな問題が生じることはなく、多くの人が見応えのある試合に夢中になれた大会であったように思います。下馬評を覆す日本代表の活躍も記憶に新しいところです。

80年の歴史を持つFIFAワールドカップが、初めてアフリカ大陸で開催されたこと、そしてその開催がアフリカ経済の中心とも言える南アフリカで行われたことは、アフリカ、そして南アフリカが新興市場国として輝き始めたことを象徴しているように思います。

他のアフリカ諸国と同じように、南アフリカも鉱物資源の豊かな国です。金やプラチナ等の貴金属、ステンレス材料のクロム等、多くの鉱物資源で高い埋蔵量・生産量を誇り、特にプラチナは世界の約8割と、圧倒的な生産シェアを占めています。また、エンゲージ・リングのCMで有名な某ダイヤモンド会社は南アフリカが発祥で、ダイヤモンドでも世界5位の生産シェアを占めています。

しかし、南アフリカのダイヤモンドと言えば、これからは「ブラック・ダイヤモンド」に注目していく必要があるでしょう。南アフリカのブラック・ダイヤモンドとは、宝石のダイヤモンドではなく、急拡大している黒人の中間所得層のことを表しています。近年の高い経済成長の原動力となり、また今後もその拡大が期待されるため、鮮やかな輝きを放つ最高級の宝石に例えられているのです。

南アフリカでは、悪名高いアパルトヘイト(非白人隔離政策)が1994年に撤廃されるまで、人口の8割を占める黒人が厳しい差別を受け、貧困を余儀なくされていました。アパルトヘイト撤廃後は、同国初の黒人大統領となり、融和政策を唱えたネルソン・マンデラ氏の功績もあって、安定した政治体制の下で、教育強化や労働支援等を通じて黒人と白人の格差是正が図られてきました。その結果として、近年は経済力のある黒人層が急拡大を始めました。それがブラック・ダイヤモンドです。ブラック・ダイヤモンドの平均年収は日本円にして100万円ほどと推定され、他の新興国の平均年収等と比較しても高めの所得水準に達しています。

もっとも、ブラック・ダイヤモンドは、まだ黒人の1割程度に過ぎず、依然として多くの黒人が高い失業率と貧困に苦しんでいます。しかしながら、アパルトヘイトが撤廃されてからまだ17年しか経っておらず、まともな教育を受けられるようになった最初の黒人の子供達は、今ようやく20歳~30歳に達し、労働参加を始めたに過ぎません。訓練された黒人の労働者が中核をなしてくるのはむしろこれからの話で、だからこそ今後のブラック・ダイヤモンドの拡大と活躍への期待が大きいのだと言えます。

ブラック・ダイヤモンドが一段と台頭してくれば、南アフリカにおけるビジネスの魅力は、鉱物資源だけでなく、旺盛な内需にも見出すことが可能になるでしょう。現在、南アフリカへの日本企業の進出は、自動車ないし資源関連に限られていますが、より幅広い分野への進出の機が熟しつつあるように思います。

コラム執筆:
安藤 裕康/丸紅株式会社 丸紅経済研究所

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