今、新興市場国の一部は急速に豊かになっています。それに伴い、エネルギーや鉱物資源、食料、水など、大量の資源消費が生まれています。資源需要拡大のベースにあるのは、人口の増加と経済成長です。経済成長はエネルギーや水であれば民間の利用に加えて工業や農業利用の増加を促し、食料であれば肉食の増加など食の高度化・多様化に伴う穀物消費の増加などに繋がります。
新興市場国の人口は2010年時点で先進国の5.7倍です。対して一人当たりの一次エネルギー消費量は5分の1でしかありません。いま新興市場国の人口全体が先進国の一人当たり並みにエネルギーを消費した場合、単純計算で現在の世界需要の4.6倍の市場が新規に誕生することになります。しかも、現在約60億人の世界人口は2050年には90億人を超えると予想されており、この9割以上が新興市場国で増加する見込みですから、市場はさらに大きくなる可能性があります。これはエネルギー以外の資源についても同じです。新興市場国において高い経済成長が続く限り、様々な資源消費を新興市場国が牽引する図式が今後も続くものと推測されます。
豊かになることは当然の権利です。ただし地球全体でみた場合、この資源需要の大幅かつ急激な増加は、環境や資源調達の面で、深刻な状況を引き起こす懸念があります。環境面では、現在の新興市場国のCO2排出量は、一人当たりで見ると先進国の2割程度です。しかし新興市場国全体では既に5割を超えており、今後の経済成長に伴う排出量の増加はほぼ不可避です。資源調達面では中国が自国外に資源を求めることが度々話題になりますが、自国の経済成長を維持し13億人に上る国民を豊かにするためには、資源の絶対量を確保する必要があるのです。
もっとも、供給可能な資源量には限りがあります。エネルギー資源を見ると、一次エネルギー供給の8割を占める化石燃料の可採年数は、石油45年、石炭120年、天然ガス60年程度です。このまま消費が増大した場合、十分な供給を長期にわたって満たすことは難しく、結果、価格は大幅に上昇します。通常であれば価格の上昇は消費を抑制すると同時に新規の開発を促進し、需給はバランスへと向かいます。しかし、価格上昇には産業が耐えうる限界があり、供給量を際限なく増加させることは不可能です。
需要増加による資源価格の上昇は、需要抑制の他に、代替物や省エネに関する技術の発達を促します。拡大する人口の豊かな生活を実現するためには、効率を高めることが絶対条件です。産業では中国の鉄鋼産業に見られるように、効率の低い設備を統廃合し最新設備を建設する動きが加速しています。豊かになった新興市場国は、後発性の利益として効率の良い技術の導入が可能であり、発電においては各国でエネルギー効率の良い発電所の建設が進んでいます。
革新的な技術進歩がなければ、90億人の人口を賄うことはできません。新興市場国の資源消費は、新しい技術への投資を待ったなしに加速する、強力なエンジンとなりえるでしょう。
コラム執筆:村井美恵/丸紅株式会社 丸紅経済研究所
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